映画 オン・ザ・ミルキー・ロード

ガチョウの群れとか、のんきそうなロバとか、悠然と宙を舞うタカとか、

外国のおとぎ話の感じそのままなんですが、そこにはじつは緊迫した銃撃戦が。



真っ青な空に、緑かがやく森、草原、うつくしいヨーロッパの景色を舞台に、

ロバにまたがってミルクを運ぶ、おじさんが泰然と登場、そこが戦場だなんて、

信じられない雰囲気なんですけれど、戦争がいまここにある、というのは、

案外そんな、アンバランスな空気が、さりげなく無慈悲に同居していることなのかも。


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やかましい大きな古時計に、ひとが噛まれて大騒ぎしたり、難民キャンプから、

美女を戦地にいる兄の妻にと連れてきたり、休戦で浮かれたパーティで踊り狂い、

恋の火花が散り、いきなり銃を撃ちまくって、結婚式の宴には、陽気に集い。

ところが絶望的に不穏な空気が、黒ずくめの男たちとともに空から降ってきて。

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そんなに深刻な話ではないと思って見ていたのに、容赦なく、あたり一面黒焦げに、

びっくりの展開が繰り広げられて、休戦じゃなかったっけ? のどかさが一変、

まるまる太った大蛇が、ミルク運びのおじさんへの恩返しなのか、神のたすけか、

生きるか死ぬかの追いかけっこが、ひろびろの大地を果てしなく、どこまでも。


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戦争とか殺戮とかってなんなんでしょうね、彼らの右往左往を見守っているうち、

傍観者と当事者の、背負っている世界の落差の大きさが、もはや滑稽なほど。

ひとびとが殺しあっても、ガチョウはがあがあ、タカは悠々、ロバはわけわからず、

釣り人や羊飼いは、きょうを生き延びる糧だけのために、いたいけな生命と向き合って、


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なんのために誰を追いかけているのか、なんのために殺めなければならないのか、

相手の名前も来し方もきっと知らないのに、ためらいなく傷つけられる、異常さ、

はたから眺めてしまえば、ただ嘆かわしく愚かしいだけなのに、おとぎ話でさえ、

ほんのちょっとの行き違いで、スリルサスペンスホラーと同居してしまう恐ろしさ。


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へんてこリアルな、とびだす絵本さながらの冒険ムービーであったりもして、

メルヘンちっくな戦地のおはなし、それでも、ラストの、少しずつ少しずつでも、

悲劇を埋めて、のどかでやさしい日々にたどりつこうと歩みつづける姿がせつなく。


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エミール・クストリッツァ監督の作品は、セルビア出身だからこその、戦争に対するリアルな

感性なんだろうなと思わせられます。


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シネプラザサントムーンにて、11月


オン・ザ・ミルキー・ロード 公式サイト


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# by habits-beignets | 2017-11-28 00:34 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 ローマ法王になる日まで

神々しいですよね、あらせられるお姿、ローマ法王、すべて超越した天上のひと、

の印象ですけれど、混乱きわまる南米で、苦悩に追われる青年であったなんて。

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原題「フランシスコと呼んで」の、現ローマ教皇フランシスコが、神学を志す

ところから、映画は語ってくれるのですが、なんとなく不穏な気配は感じるものの、

これほどの暴力や殺戮が行われようとは、だって陽気で楽しそうに和気あいあいの

雰囲気は、まさにラテンアメリカ、音楽とサッカーで、熱くなったりはしても。

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けれど、あれよあれよの間に、悪夢のような過酷な状況に、アルゼンチン、

軍事政権すさまじかったのですね、神が後ろ盾の教会でさえ、その圧力の前に、

なす術のない受難を余儀なくされて、生けるもの、誰をも平等に救いたくても、

それが危険と隣り合わせ、信仰をつらぬこうとすれば、奪われる思考や生命。

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神父であっても、サッカー好きの純朴な一青年、親しい友人、同僚を気遣い、

彼らが苦しみ喘ぎ、あるいはなぜか、いなくなる、その恐怖と絶望に身を裂かれ、

なのに、何もできない無力感は、想像を絶する悲しみだったのでは。

守りたい人を、守れない、なにが正しいのか、わからないまま、信仰だけを。

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どうにか生き延びて留学した先で、ひとりの信者として祈る姿は、無垢で、

よわよわしかったけれど、すがる気持ちで手に取った、絵の中の聖母の仕草に、

かすかな希望を見いだすことができたとき、信仰心がもたらす強い力を、

きっと確信できたような、この世のわけのわからない惨禍も、ほどけるときが。

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帰国してからの、つましく貧しいひとびとと手をたずさえての、暮らしぶりは、

迷いなく、毅然とみえて、難しい説教より、聖母マリアに寄り添うことで、

困難に立ち向かうよう導く姿は、やさしくて、堂々たる風格。

軍政はおわっても、富める者と貧しい者の対立で。街は更なる混乱だけれど。

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今度は利権政治との闘いでの、交渉の場で、あなたにだって上司がいるでしょ、

と責められての答えは、揺るぎない自信で裏打ちされ、やむない激しい抗争で、

彼がとった行動は、信仰心への強い信頼が感じられ、誰もが何かを信じて、

慕って、愛されたくて、その前では、兜を脱いで、祈りに身をささげる真実が。

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法王とか、バチカンとか、厳粛で荘厳な世界というイメージだったのだけれど、

現実には、貧しかったり汚れてたりの社会とも、密接であったりするのですね、

救いとはなにか、平安とはなにか、と絶えず探ってきた物語が、集結する、

それが、現世での、神とつながる場所であったりするのかも、と思ったり。

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音楽、よいですね、ピアソラを彷彿とさせる、アルゼンチンの空気感が。


シネプラザサントムーンにて9月


ローマ法王になる日まで 公式サイト


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# by habits-beignets | 2017-09-20 00:58 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 人生フルーツ

想像を絶していました、期待していたものの、今時の、自然とともに暮らす、

シニアの豊かなスローライフ、かと思っていたら、そんなぬるいものではなくて。

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90歳と87歳の夫婦、庭はたくさんの果樹や野菜畑でいっぱいで、静かに、

ゆっくりとだけれど、一日中、大忙し、二人きりの暮らしでも、ときどき、

大声で呼ばないと、行方不明、互いの呼び名さえ、歳月こえて愛らしくて、

食卓の、夫の食事と、妻の食事を見比べれば、自然な思いやりの形がみえて。


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けれど、このほのぼのと充実して流れる時間の影に、裏打ちされた彼らの覚悟、

夫は、戦後の焼け野原で、人々が幸福になれる住まい、夢の公団住宅の造成に、

情熱を傾けた建築家だったけれど、その思惑は、高度経済成長の波にのまれて、

どうやら挫折、でも強い反発は見せないで、諦めない気持ちでか、土地を買い。

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えっ、て、すこし意外なお宅の場所でした、すっかりもっと、山奥のお話かと、

その土地を選んだ誠実さ、自分たちの土地だからこそ、自分たちの思いのまま、

自分たちの流儀を貫いて、人知れず静かに闘う、ってこういうことなのかも、

誰か何かを攻撃することに興味なし、信念があるなら、ひそかに自分たちだけで。


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雑木林に囲まれ、野菜をそだて、それらを慈しむよう、あちこち小さな木札、

名前やコメント、まるで、みんな寄り添って、生きてるよう、家と庭すべてが、

夫婦とともに、陽をうけて、風にそよいで、季節のうつろいを、それぞれ、

肌で感じて、自らの役回りをまっとうして、偉大な建築家たちの名言そのまま。


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奥さん英子さんの、家庭というものに対する姿勢と手仕事、旦那さん修一さんの

時間を惜しまずに、ひとの幸福を掘り起こす作業、イラストとか、工作とか、

ともかく可愛くて、あちこち飾られてる、趣味のヨットの小物やら、お出かけの

愛車の色デザインも、キュート、二人の来し方のエピソードも、美しく頑なで。


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家族のイベントでは、旗があがる、これは、津端家みんなで、がんばる合図、

ちらちらと、ときおり見られる、修一さんのたどってきた道、厚木で見た

マッカーサー、ともに働いた台湾からの若者、穏やかでにこやかな目に涙も、

そして、ある日、色あざやか満艦飾の旗が青空に、きっと大切なイベントが。


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本当に心からやりたい仕事、というのを、ずっと諦めてなかったんですね、

修一さん、英子さんとふたり、宝石箱のようなお家で、細かな仕事から

力仕事まで、時間をつないでいる間も、じつは何かをいつも準備していた、

はがきを書きながら、ミニチュアを作りながら、障子紙をはがしながら。


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なにげない日常の背後に、情熱と信念がたえず存在している、そんな、

力強い夫婦の姿に、暮らしのふところの深さというものが感じられて、

すばらしいドキュメンタリー、もとはテレビで放映されたようですが、

パンフレット買い求めました、スタッフの熱意や裏話、興味深く。


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映画そのものも、いちいちの説明コメントとか、修一さん方式?可愛い。

おびただしい数の、口が開いた段ボール箱は、英子さんのあふれる愛。


シネプラザサントムーンにて6月


人生フルーツ 公式サイト


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# by habits-beignets | 2017-06-29 00:27 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 わたしは、ダニエル・ブレイク

病気で失業を余儀なくされた、おじいさんが、貧しいシングルマザーと心通わせ、

なんて、ほのぼの心温まる物語かと思いきや、なかなか厳しく、鋭く、痛いです。

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イギリスのニューカッスル、実直な大工だったダニエルが、どうやら病に倒れ、

国の援助を受けるための手続きに四苦八苦、これが、見ているこちらもイライラ、

まじめに自分の窮状を伝えようとしているのに、返ってくる答えはズレまくり、

怒りをおさえて、従おうにも、わけのわからない無意味な煩雑さに、翻弄の連続。


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困窮したひとりひとりの訴えが届かないで、絶望の空気が充満した窓口で、

ふたりの子をつれた、若い母親の嘆く声が響き、たまらず援護したダニエルは、

自分の境遇だってままならないのに、彼女に同情、真心こめて出来る限りの親切、

お金はなくても、寄り添って、励まして、役立つ情報や持ってる技術で、助けて。

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けれど、いくら隣人の、やさしい気持ちやいたわる言葉があったところで、

生きてくのに、食べものや、いろんなものはどうしても必要、やはりお金が必要、

自分を理解してくれる人も、救いにはなっても、それだけでは、悲しいことに、

暮らしは成り立たない、だから、そのための国の制度のはずなのだけれど、なぜ。


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きちんと真面目に、国のための義務を果たしてきたのに、裏切られたような

やりきれなさは、どこにぶつければいいんでしょうね、援助を請うというのは、

それほどまで貶められるべきことなのでしょうか、媚びへつらえ、みたいに、

高圧的に課される手続きは、まるで、諦めろとでも、言いたげに思えて。


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自分が最後まで守りたいと願っているもの、どんな境遇になっても、大切に、

持ち続けていたものを奪われなければ、生活できない状況になってしまったら、

生きてゆく意味って、価値って、希望って、信じられるものなんでしょうか、

誰もがともに、幸福を求めることを、認めあう社会って、あり得ないの?


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いえ、みな親切なんです、隣人も知り合ったばかりの人も、見知らぬ人だって、

困ってたり倒れそうな人には、助けてくれる人がたくさん、なのに、

組織にくみこまれると、名札をつけると、とつじょ不人情に、話さえ通じず、

得体の知れない何かにたどり着けない、カフカの不条理劇さながらの、物語に。


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国民の誰もが健やかに生活できるよう、よかれ、と定められたはずのしくみが、

本来の目的から目をそらしてしまうことの、恐ろしさに、打ちのめされそうな、

善良なひとたちに、ダニエルのまっすぐな言葉が、勇気を与えてくれますように。


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シネプラザサントムーンにて6月


わたしは、ダニエル・ブレイク 公式サイト


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# by habits-beignets | 2017-06-06 22:56 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 ラ・ラ・ランド

きらきら色あざやか、スクリーンいっぱい、歌ってはずんで踊ってみたり、

それぞれ夢にむかって、一直線のふたりが、出会って恋におちての物語。


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少しありきたりで、身のほど知らずの夢ではあるのですけれど、若いですものね、

オーディションに落ちまくりの、女優志望の女の子と、自分の好きな曲だけを、

演奏できる理想の店を持ちたい、ジャズピアニストの青年が、少しつっかかりながら、

つべこべ言いあいながらも、人生のままならなさ、せつない気持ちのシンパシー。


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頑張ってるつもりなんだけれど、いつもうまくいかない、やはり無理かもしれない、

どうやら周りからも、きっと冷ややかな目で見られている、もう諦めるべき?

そんなとき、理解してくれる、肯定してくれる、励ましてくれる、誰かって、

かけがえのない、とても大切な存在、あした生きてく、力をくれるだけでも。


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星いっぱいの夜空を、手をとりあって、渡ってゆく幸福が、ほんの一瞬でも、

肩をよせあい、愛おしさを奏でる調べが、永遠でなくても、今そばにいる、

ぬくもりを感じられる、支えがうれしいのに、それだけでは立ち行かない現実、

その場しのぎでも、日々の糧のために、なにかを犠牲にすることがやはり。


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いわゆるミュージカルの能天気さにも、見放されて、夢と現実の境界で、

自分を信じて勇敢にチャレンジしたり、すぐに希望を見失って絶望したり、

このひとと一緒なら、そんな気持ちで、夢が輝きを、増してもきたのに、

ふたりでいても、一向に遠のきそうな、はるかな夢が、もはや苦しくて。


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演じるエマ・ストーンと、ライアン・ゴズリングが、みずみずしく痛々しく

出会った春の、うきうき予感に高鳴る踊りっぷりは、はじけて、

夏は、息もぴったりの疾走ステップ、そして、秋はとまどいの揺らぎが、

冬のクリスマス、美しいピアノの音色に、時間がとまり、あるいは戻り。


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すべて思いどおりにならなくても、必死でなにかを追いかけていた日々の、

触れ合い、交わした言葉、いたわりあいは、ずっと密やかに胸の奥でくすぶって。


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冒頭のハイウェイ渋滞の華やかさから、すこし心痛い大人の世界に。

いろんな名画のいいとこどり、ミックスみたいな、楽しさみごとさ、

なんとなく、ローマの休日ぽい、凛々しくやさしい印象ものこって。


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音楽、よいですね、なんか元気になれそうな励まされるような、リズムメロディー。

ラストは圧巻、ああ人生ってなんかそんな感じの一瞬の永遠のつらなりのような。


シネプラザサントムーンにて3月


ラ・ラ・ランド 公式サイト


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# by habits-beignets | 2017-03-14 00:13 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー