<   2013年 04月 ( 2 )   > この月の画像一覧

『マッピー』用ボーダー

映画 ある海辺の詩人―小さなヴェニスで―

ヴェニス。水の都のイメージにはどこか華やかさを覚えるけれど、
映画の舞台のキオッジャは、うら寂しさを醸しながらの、たおやかさ。

b0209183_21235659.jpg

最愛の息子と暮らすために、いまは遠く離れて孤独な暮らしを強いられる
おとなしげな中国女性が、命じられるまま、ちいさな酒場で働くすがたが、
戸惑いつつも地元漁師のおじさんたちと馴染んでゆく過程が、微笑ましく。
妙に可憐なんです彼女、酒場に似つかわしくなさそうな出で立ちなのに。

化粧気なく少女のよう、遠慮がちに表情を変えるしぐさには、なにかを
秘めていそうなほのかな輝き、ちょうど、暗がりで真っ赤な花びらの灯明を
水辺にうかべたときの、せつなさを訴えてくる光のよう。だから、こころの
どこかに、おなじ芯をうずめている者は、もらい火がほしくなるような。

b0209183_2125342.jpg

おだやかそうではあるけれど、寒々しい潟で、漁にたずさわる老齢の
男たちの、たくましさと寂しさは、遠くに雪の山脈を背景にひろがる
海面のかすかな波だちを、そのまま、からだの奥にたたえていそうで、
風にあおられれば、とつじょ波ははげしく、海底のうねりがあらわれて。

b0209183_21242435.jpg

いきなり水かさが増し、床まで浸水した酒場でも、客の誰もが慌てないで
いつもとおなじにくつろぐのに、店ではたらくシュン・リーだけが戸惑い、
けれど、こころがかよい始めた老漁師ベーピの励ますようないたずらが、
馴染み客がつどう、ありふれた酒場を、つかのま、詩情ただよう幻想に。

b0209183_21252657.jpg

互いの境遇を、写真をみせながら、とつとつ、語りあうさまは、
ひそかに抱えていた孤独を、いたわりあう気配が感じられて、それを
愛情とか、罠だとか、型にはめようとする周囲に、汚されるのが気の毒
だけれど、愛の対象をきちんと定めないと、踏みつぶされてしまうかも。

b0209183_21254467.jpg

イタリア語をたどたどしく喋る、シュン・リーの、透明な声が、詩を詠む
のにとても、ふさわしく、にわか詩人の老漁師に、慈しまれるのが自然で、
水面にうかぶ灯火を、大切ななにかの、とむらいなのだと、共感できる
魂のむすびつきが、かたちあるつながりは断たれても、どこかでまた。

ジョイランドシネマ沼津にて、4月

ある海辺の詩人―小さなヴェニスで― 公式サイト
[PR]

by habits-beignets | 2013-04-29 21:57 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 桃(タオ)さんのしあわせ

いつも、あたりまえに、そばに居てくれたひとが、倒れたときの戸惑い。
それは、自分の存在価値さえ、あやうくおもわれるような頼りなさ。

b0209183_1975837.jpg

いつかはそうなるときがくる、と頭ではわかっているつもりでも、
いざその兆しが表れたときの、動揺、日々の生活に、さざ波がたって、
そのうねりの気配に、つねに怯えていることの、ちくちくとした痛み、
桃さんと、彼女に育てられた青年の、せつない心の交流が、静かに。

b0209183_19132453.jpg

物語はゆっくり、桃さんのあぶなっかしい足取りのように、たじろぎながら
それでも、確実にまえへと進み、素朴な日常の積み重ねではあるのだけれど、
避けられない「そのとき」にちかづいて、多忙な身にもかかわらず、躊躇なく
介護を引き受けた青年の、いたわりとやさしさに包まれながら、穏やかに。

b0209183_199468.jpg

老人ホームでの、戸惑いながらもなじんでゆく、桃さんと青年、楽しみな、
ときどきのお出かけ、最初はその場所にそぐわないほど元気にみえていた、
おしゃれをすると若い頃の美人ぶりを彷彿とさせていた桃さんも、舞台が
場面転換を繰り返すうち、着実によわってゆく様子が、とてもリアルで。

b0209183_1992596.jpg

とくにそれほど悲観したり苦悩したりは、してみせなくても、それぞれの、
人生でのわかれに立ち向かう、一瞬一瞬をたいせつに、笑顔と思いやりを
かき集めて、悲しみとたたかうさまが、心を揺さぶってきて。ちょっと
ワルなおじいさんにも、寛大なのは、弾けるときの大切さがわかってるから?

さまざまな事情を抱えているひとたちの、さりげない心の交流が描かれながら、
ささやかな出来事を、いつくしむことの尊さに、思いは引き寄せられ。
絶やさない笑顔の、その合間の、悲しみが、冷静さのなかにも、じわり滲んで、
感情的な台詞はいっさい排されても、仕方ないのか、嘆きが聞こえるよう。

b0209183_1995243.jpg

時の流れに逆らえず、身内が弱ってゆくのを見守る機会を、もつようになると、
ほんとうに胸に突き刺さってくるような、お話でした。どうにかしたいのに、
諦めるしかないと、覚悟することの、からだが冷たくなるような、脱力感。
恥ずかしながら、途中から、胸の奥底で静かに嗚咽。

アンディ・ラウの素朴な好青年ぶりが、とってもすばらしい。

ジョイランドシネマ沼津にて、4月

桃(タオ)さんのしあわせ 公式サイト
[PR]

by habits-beignets | 2013-04-02 19:34 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー