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『マッピー』用ボーダー

映画 東ベルリンから来た女

ベルリンの壁崩壊以前の東ドイツで、思想や発言の自由が奪われていることの
圧迫感と恐怖は、これまでにもたびたび映画で観てきたけれど、今回ちょっと
ちがう印象、というのは、体制への反抗がテーマではなくもっと身近ななにか。

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自由と豊かさに惹かれて西側へ行こうとしたけれど、政府に拒絶された女医が、
田舎の病院へと左遷されてきたところから、物語ははじまるのだけれど、
このヒロイン、お医者さんなのに煙草スパスパ、無愛想でぶっきらぼう、
あえて周りと壁をつくって、なのに、一転、患者への対応のやさしさったら。

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病院のひとたちは、みな優しそうだし、木々が風にあおられる風景ものどか、
たしかに裕福そうなひとは皆無で、華やかさはないけれど、それほど不自由な
生活にもみえなくて、でもときおり、かいま見られる不気味さ、人民警察、
少女をむりやり押さえつける、容赦ない態度など、女医のやりきれない表情。

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そしてぱっと、西側の人間がでてくると、如実にわかる、東側のまずしさ、
欲しいものを手に入れることが、むずかしい世界での、物足りなさ、それに
慣らされるように、うえから押さえつけられる、屈辱感。いつも仏頂面の
ヒロインが、つかのま恋人と会えたときの、弾ける笑顔こそ、西側への希望。

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それでも、そんな窮屈な世界でも、与えられた使命をまっとうすることに、
誠実なひとたちはやっぱりいて、可能な限りの設備をととのえ、休みも返上で
患者のために、わが身をけずって尽くす同僚の医者の姿に、それまでただ
ひたすら、西側での生活を夢見ていた、ヒロインのこころに、揺らぎが。

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自らの手足をしばるような体制は、やはり、憎むべきものかもしれないけれど、
いま目の前で苦しんでいる誰かが、自分のちからを求めていると、知ったとき、
いまいる場所で、自分にできることが、たしかにあると、思い知らされたとき、
なにか、啓示みたいなものが、おりてくる瞬間が、ありそうな、そんな気が。

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旧東ドイツ、これまで、なんとなく、暗くて陰険なイメージで描かれていた
ような気がするのですが、東欧のつつましくて、きよらかなかんじが、風景に
映っていて、薄やみの海の荘厳さ、林道をぬける自転車のかろやかさ、それから
ファッション! 膝丈のワンピースとカーディガン、欲しい! 手提げ籠も!

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さらに、診察のお礼にいただいた、ズッキーニ、トマト、それでラタトゥイユを
つくろうとする、ちいさなキッチンの、いかにも東欧チックなかわいい調度品。

素朴なうつくしさと、身近に存在する使命感の尊さ、じわり響く作品でした。

ジョイランドシネマ沼津にて、5月

東ベルリンから来た女 公式サイト
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by habits-beignets | 2013-05-28 06:50 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 拝啓、愛しています

もうずっと、涙でちゃって。歳のせいかたしかに涙腺よわいですが。
老いても、恋って、愛って、ピュアで一途でほんとうにうつくしい。

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韓国のノリっていうんでしょうか、耳に心地よい恋の歌がさいしょから
ながれるんですけど、登場人物はおじいさんとおばあさん、最初はちょっと
どうなのってかんじがなきにしもあらずなんですけど、彼らの表情を見ている
うちに、なんの違和感もなく、だってときめきや恥じらいが可愛いのなんの。

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待ち合わせ場所でのそわそわ、携帯とかないのねそうなのね、かっこよく
見せたくて、ごまかしたり、怒ったり、やってることが少年少女、小石で窓を
たたいたり、ちょっとしたことで焼きもちやいたりそして、思いがけない言葉や
行為で、いちいち感動して泣いたりして、そういうきもちが初々しくて。

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けれどそんな何気ないことが、つい涙をさそうのは、彼らの背景がけっして
あかるいものばかりではないから。いろいろの、つらかったり苦しかったり
悲しかったりの、悔いや絶望や諦めが、のこされた人生をつい悲観してしまい
がちに、そこにやっと差し込んだ光が、どんなに輝いて見えたことか。

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家にとじこめるしかなくなってしまった妻だけれど、いないと自分は生きて
いけないという夫の、つねに微笑をたたえているような辛抱強い愛情と、
彼ら夫婦をいたわるように崇めるようにみつめる、いま巡り会ってこころが
通いはじめたよろこびで、寄り添い始めたカップルの、戸惑いながらの交流。

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バイクで二人乗り、海へのドライブ、やさしさをわけあう時間のいとおしさ、
薄やみの夜明けを、けたたましい音をたてて坂を走る牛乳配達のバイクと、
その音を部屋できいているひとたちの、言葉にしなくても気持ちがつながる
ほほえましい街の風景、人知れず、相手のことをいつも気づかう、いじらしさ。

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ともかく、牛乳配達のおじいさんの表情がもうキュートで、怒ってばかりの
登場だったけれど、ひとたび気持ちがやわらぐと、馬鹿みたいに親切で
恋をしている少年そのものの、くるくる変わる目の動きに、おかしさがこみ
あげて、だからラストの、門柱のシーンがこころにずーんと。

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けれど現実は死にすこしずつでも近づいていて、誰かを失いたくないと願う
切実さが、かなしみとともにつたわって。でも結ばれたこころはきっと、
いつまでもそのまま、そんなささやかな希望の気配がかんじられて。

ジョイランドシネマ沼津にて、5月

拝啓、愛しています 公式サイト
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by habits-beignets | 2013-05-15 01:27 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー