映画 リリーのすべて

互いに尊敬しあい、魅力を認めあい、とても幸福そうな若夫婦なんですが、
ほんのはずみから、思いもよらなかった、複雑で終わりのみえない、苦境に。

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ハンサムな夫は、新進気鋭の風景画家、まわりからの評価も高く、順風満帆、
彼を誇りに思う妻も、美人で魅力的な肖像画家、絵の評判は今ひとつだけれど、
それぞれの個性を尊重しあって、切磋琢磨しつつ、たえず睦み合う関係が、
いかにも心地よく、不足するものなど何もない、理想のカップルそのものに。

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なのに、軽い気持ちで、妻の絵のモデルの代役を夫がひきうけたことから、
それまで露ほども考えていなかった、夫の変化がみるみる、そんなつもりでは、
と激しく後悔しても、すでに遅し、あんなに紳士然としていた夫だったのに、
誰もがうらやむ、まっとうに幸せな夫婦だったのに、暮らしは混乱に陥って。

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理解したい、安楽を分かち合いたい、と望んでも、かつて愛し求めた夫の姿を、
見ることができなくなってゆく、恐怖と寂しさ、それでも、夫に本来の姿を
取り戻させてあげたいと願う、切実な愛情、つねに揺らぎながら、責めたり、
落ちこんだり、励ましたり、案じたり、誰かに助けを求めたり、出口を探して。

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皮肉なことに、夫をモデルに描いた絵が、とつじょ売れて、妻は一躍、
売れっ子画家に、対して、描くことがなくなった夫はつまり、叶えられない
欲求こそが、表現の源流だったのかもしれず、いつも描いていた同じ風景、
故郷への憧憬の、色彩の深さ、静かな暗さが、悲しみをたたえているようで。

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リリーと名乗るときの、夫のはにかみ悲しそうな笑顔、彼の不在の不穏さに、
彼を描くことで、自分を支えようとする妻、夫婦というかたちを超えて、
互いを結びつける絆を、かろうじて信じようと、現実的な解決策に、
恐れをこらえて、挑もうとする姿が、痛々しくも、たくましく、勇敢で。

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役者の誰もが魅力的、舞台となるコペンハーゲンの街並も、いかにもの美しさ、
当時のヨーロッパのファッションも、目に楽しく、物語冒頭とラストの
つながりも、しなやか、風景そのものがきっと、彼だったのではと思われて。

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シネプラザサントムーンにて6月

リリーのすべて 公式サイト
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# by habits-beignets | 2016-06-24 00:58 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 アイリス・アプフェル! 94歳のニューヨーカー

歳を重ねてわかったのだけれど、もうおばさんだって自分に言い聞かせても、
悲しいぐらい、中身は女の子だったりで、かわいいお洋服やアクセサリーに、
ついつい引き寄せられてしまう、きれいな色やデザインに、ときめいてしまう。

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それ、でも、健全なことなんですよね!きっと必要で大事なことなんですよね!
94歳のニューヨーカー、アイリスさんの、ゴーイングマイウェイっぷりは、
パワフルで、ケタはずれのカッコよさ、なのに自然体、その正体は?と思いきや
インテリアデザイナーとしてのキャリアは相当、なるほど、でもとても気さく。

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おそらく、かなりハイソな世界でお暮らしだと思われるのですが、けっして、
高級品ばかりを身につけるわけではなく、ジャラジャラ、チープなアクセを、
厳しく吟味しつつも、ひょいひょい手にとり、組み合わせては、ほらどうよ?
とばかりに颯爽登場、その姿、まさに「めずらしい鳥」、えもいわれぬ威厳が。

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彼女の膨大なファッションコレクションが陳列披露されたのは、ちょっとした
アクシデントが、きっかけだったらしいのだけれど、あっというまに口コミで
評判に、84歳にして時の人に、モデルやコメンテーターとして引っぱりだこ、
プロデュースしたものは即完売、キャラも立っての、ファッションアイコンに。

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いやもう、トークショーでコーディネートを助言するシーンがあるのですが、
彼女の迷いのない手で、着る人それぞれが、いきいきと輝くさまは、お見事、
人によって、シチュエーションによって、着るものを選ぶことの大切さと、
楽しさが、驚きとともに伝わって、装いって、輝く人生につながるものかも。

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なかよしの旦那さまの装いを選ぶのも、楽しそう、というか愛に満ちて、
キラキラ元気に! いっしょに闊歩! どこか祈りのような、功徳にさえ、
本当は、いくら精力的に動きまわっていても、若い頃とおなじではない、
でもだからこそ、鮮やかな色、キュートなものに囲まれる喜びをつねに。

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スーパーウーマンに違いなくても、華やかな人生の影であきらめたものも、
そうは見えずとも、苦悩や悲しみも、おそらくいくらかあったはず、でも、
自分にふさわしいもの、自分を豊かにしてくれるものを、情熱的に求めたら、
まわりを惹きつけ、希望や楽しさや喜びをふりまいて、極楽鳥のように。

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旦那さまの100歳のお誕生日パーティーの、にぎやかな神々しさ。
「パーティーに出かける支度は、パーティーそのものよりずっと楽しい」
至福の時間を、身近な人たちみんなと分けあえるよう、その心がけこそが、
おしゃれ、自分がハッピーであることが、みんなのハッピーに、きっと。

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シネプラザサントムーンにて5月

アイリス・アプフェル! 94歳のニューヨーカー 公式サイト
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# by habits-beignets | 2016-05-28 12:16 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 キャロル

50年代ニューヨーク、クリスマスシーズンのデパート、ゼンマイ仕掛けの
玩具たちがところ狭しとならぶ売り場での、視線の交わし合いに目が釘づけ。

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サンタ帽を被った売り子の女性と、たっぷりな毛皮に身を包んだ客の女性、
店内の混雑に遮られながら、目を合わせた瞬間が永遠のときでもありそうで、
これって何だろう、このわけもなく、どうしようもない、あらがえない吸引力、
もしや? そう気づいたときにはすでに遅い、迷う暇もなく、つっぱしって。

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世間並みのしあわせは、すぐそこに、ちょっと手をのばせば、誰も傷つけずに
それなりに恵まれた人生を歩めそうなのに、なぜか拒絶せずにはいられない、
たぶん希望が見いだせないから、物足りなさに鬱鬱となる心が叫びそうだから、
自分が何を欲しているか、考えなくても、圧倒的な心の動きでわかってしまう。

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本当に、互いをわかちあいたいと渇望したとき、異性はむしろ幻滅の対象かも、
この時代の男性は、女性を所有欲の目で見ていそうだし、上から目線は確かに、
美しさ可愛さを讃えるばかり、自分の意のままにならなければ、激しくなじる、
けれど彼女たちは、ためらいがちに、でもまっすぐ、相手の心の奥に忍びこむ。

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あっと思うまもなく、二人の女性の情熱のまま、物語は加速してゆくのですが、
写真家になることを夢見る、少女のようなまなざしが、一分一秒を逃すまいと、
フィルムに刻むのが、いたいけな祈りのようでいじらしく、まぶしげに見返す、
年上の女性の、華やいでいながらも、どこか冷めた表情が、気高く悲しそうで。

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いつかは終わりがくるから、という変えられない真実を受け入れるかのように、
逃避行じみた二人の関係は、中断を余儀なくされそうになり、ふと立ち止まって
考えたり決断して、そして時間が、いつか自然に熱を冷ましてくれたようにも、
でもきっと人生のなかでの、代えがたい一瞬は、強く互いの核にきざまれて。

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映画冒頭からラストへの流れが、非のうちどころのない完璧さ。
目だけで、すべてを語る、女性たちの、表現力のゆたかさ。
混雑を介しての大胆な視線、誰にも悟られない密会の、濃密さ妖婉さ。

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さておきファッションがとってもすてき、オードリーぽいジャンパースカート、
ヘアバンド、タータンチェックの帽子マフラー、クラシカルな車、街並も。

シネプラザサントムーンにて4月

キャロル 公式サイト
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# by habits-beignets | 2016-04-13 16:31 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 アレクセイと泉

チェルノブイリから北東に180キロ、ベラルーシのちいさな村、
2000〜2001年、日本の監督が撮ったドキュメンタリー。

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アレクセイ青年の静かな語りで、映画は始まるのですけれど、内容は深刻、
放射能、汚染、恐ろしくもあって、それなのに、目の前にひろがる光景は、
すこぶるのどか、昔むかしからの、丁寧でおだやかな暮らしを、微笑みながら
くり返す、ただ、若者の姿は殆どないけれど、アレクセイ青年が頼りだけれど。

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古くから大切に使われてきた、泉の水、暮らしの中心、いのちの源のそれの、
汚染量はゼロ、まるでおとぎ話のようで、信じがたいのだけれど、村の誰もが、
病とはいかにも無縁そうに、たくましく惑わず、まっすぐひたすら自分たちの
流儀を、しなやかに守り続ける、雪のなか、新緑のなか、隣人と手をたずさえ。

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久しぶりにやってくる司祭に、見てもらえるよう、泉の木枠を修繕するのは、
老いた男たちの腕と足、その仕事ぶりには誇らしさが、神聖な沸き水を守り、
関わり、恵みをうけることがそのまま、生きてゆくことと信じているようにも、
泉の畔に立つ、三角屋根の十字に、彼らの純粋な信仰が、可憐なたたずまいで。

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原子力とか放射能とか、そもそも無縁の空気がいっぱい広がってるんです、
じゃがいもを掘り、カゴを編んで、糸をつむいで、暖炉でパンを焼き、
ときおり移動販売の車で、よそのものを買い、祭りではみなで歌い踊って、
老いていても、まるで少年と少女、女たちの花柄の衣装はお人形さんのよう。

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政府の移住勧告で600人だった住人も55人の年寄りと1人の青年に、
町に住む子供や孫には、週に2本のバスでしか、もはや実際には世界から
忘れられられようとしている村なのだけれど、ここで暮らし続ける人たちには、
これ以上は望めない楽園のようで、とどまることの圧倒的な説得力が。

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けなげでいじらしくて、多くを求めない、まっすぐなひとたちをどうか、
清らかな泉が、けがれからお守りくださいますように、
花模様で満ちた、あたたかそうな部屋そのままの、世界でありますように。

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福島の事故が起こる以前の、すこし古い映画なのですけれど、
長泉町のクレマチスの丘で、上映されました。

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6月にも、上映されます。写真家である監督の他の映像作品も。
写真展が、IZU PHOTO MUESUMで開催されているのですけれど、
そちらの入館料で、映画、トークイベントなども観覧できます。

クレマチスの丘ホールにて4月

クレマチスの丘

IZU PHOTO MUSEUM

本橋成一監督作品 上映&トークイベント

アレクセイと泉 公式サイト
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# by habits-beignets | 2016-04-05 01:25 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 ハッピーエンドの選び方

舞台はイスラエルの老人ホーム、おしゃれで立派でたのしそう、
互いの余生を思いやり、助け合い、でも、終わりのときに気持ちは揺らいで。

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いつも何かを工作しているおじいさんは、いたずらっ子めいた明るさで、
どうやら、病気が進行しているらしき奥さんをも、自作の発明品で励まして、
でも、重い病気に苦しむ友だちとその奥さんには、せつない気持ち、寄り添う
思いが強まって、どうにか楽にしてあげたい、切実な願いなら叶えてあげたい。

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それは犯罪、いけないことと、咎められて、葛藤して、それでもきっと、
大切なひとからの訴えを、むげにはできず、仲間をつのり、思い切って決意、
でも誰が? 誰の手で実行? で計画はのっけから頓挫しかけ、そこで発明、
誰もが罪悪感に苦しむことがないように、恐ろしい犯罪と距離を置けるように。

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いや苦しいですよね、物語はあえてあまり深刻にならないよう、あちこち
ユーモアちりばめられて、不謹慎にも笑ってしまったりもするのだけれど、
もはや命を延ばしているのが、耐えられない、けれどそれを断つ手段もない
袋小路の状況でのジタバタ、愛しているからこそ、お別れを覚悟しようと。

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思うように体が動かせて、したいことができて、気持ちを伝えることができて、
大事なことを覚えていられて、ということができなくなることの、悲しさ、
いつか回復できる希望がなければ、生きてゆくことへの執着はなくなるかも、
どんなに明るいことを考えようとしても、つきまとう虚しさに蓋をされて。

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でもどうなんでしょう、ただそこで生きている、ということだけでも、
誰かの支えになることもあるような気はするのですけれど、それまでとは
違う状態になっても、意思の疎通がかなわなくても、息づいていてくれる
だけでも、ありがたいような気もするのだけれど、それはむしろわがまま?

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やりきれない苦痛ばかりの生から、解き放たれることこそが、よろこび?
でも、それは敗北ではないの? 逃避ではないの? だって寂しいから、
そばにいたいから、いてほしいから、一緒にわかちあう時間が欲しいから。

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誰かの役に立てるよう、よろこんでもらえるよう、発明品をこしらえてきた
おじいさんの、いろんなひととの交流、お別れをとおしての、迷いが、
軽やかなテイストで伝わってきて、もしも自分の身に起きたら、どれほどの
思いが錯綜することか、生って愛って難しい、考える対象には向いてない。

シネプラザサントムーンにて2月

ハッピーエンドの選び方 公式サイト
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# by habits-beignets | 2016-02-27 21:04 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー