映画 博士と彼女のセオリー

ホーキング博士、もちろん存じ上げてはおりますが、はずかしながら、
その偉大な功績の内容ではなく、むしろ崇高なお姿ばかりが印象的で。

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類まれな才能の持ち主ゆえ、ごく普通の身体をさずからなかったということ
なのかと、勝手に推測していたのですけれど、発症されたの青年になってから
だったのですね、優秀だけれどちょっとシニカルな、物理学専攻の大学生、
友人たちとはしゃぎ、恋にもあんがい積極的、輝かしい未来が、目の前に。

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それが、不治の病、どんなすばらしい考えも、やさしい気持ちも、誰かに
伝えることのかなわなくなる、身体機能の喪失、容赦なく余命まで告げられ、
当然のことながら、一気に絶望の淵に、手が届きそうだった幸せをあきらめて、
けれど、ともに闘うと心を決めた恋人が、彼のかたくなな姿勢をくだこうと。

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愛さえあれば、病にも打ち勝てるという情熱は、たしかに本物で、だから、
周囲の心配をよそに、絆は深まり、あれよあれよというまに、家族も増え、
学会では名を挙げ、と、すべては順調のようでも、わずかな軋みが、徐々に
ひびを作って、笑顔では、努力では、どうにもならない鬱積に、さいなまれ。

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でもこれ、病とか、社会的地位とか、そういうこととは関係なくても、
夫婦って、人間関係って、時間の経過で、それぞれの経験で、社会的立場で、
うねうね変容してしまうものですよね、根っこには愛情とか信頼とかあっても、
ほんの一瞬、心に吹く風で、互いへのはたらきかけ方が、微妙に的をはずして。

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見えていたつもりだった、つかまえるつもりだった未来が、逃げてゆく気配に、
なすすべもなく、静かに苦しんだり悲しんだりする現実は、無慈悲のような
気もするけれど、そのときどきの選択、決心が、真剣に命がけで引き受けた
ものなら、絶えず炎をあげつづける星さながらに、遠い場所まで照らす輝きに。

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宇宙のなりたちから時間のはじまりは、エレガントな数式で証明されるもの
らしいのですが、何がはじまりだったか、そしてどこへむかってゆくのかに、
かかわらず、いまというたしかな時間を、最良のかたちでとらえることこそ、
ありのままの生を昇華させる、どの時間を切り取っても、美しくすることに。

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時間て、なんとなく、過去から未来へ一直線に向かっているだけのように
感じてしまっているけれど、ほんとうは、どっちが先で後だとか、便宜的な
ものでしかなく、じつは混沌、宇宙が爆発して虚無になるまでの、輝きの
色合いでしかないのかもと、映画のラストの、ワンカット、ワンカットに。

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とてつもなく大きなちからで、計算され尽くされた宇宙の旋律が、
ひとりひとりの、ささやかな、けれど精一杯のちからで奏でられる
シンフォニーの、いじらしさが。

シネプラザサントムーンにて5月

博士と彼女のセオリー 公式サイト
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# by habits-beignets | 2015-05-17 17:01 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)

輝いていた過去に追いかけられるのって、かなしくさびしい気分ですよね。
いまのほうが、ずっともっと充実してる、進化してるって言い張りたくて。
落ちぶれぎみの俳優が、じたばた、起死回生もくろむ、物語。

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かつてのスーパーヒーロー、もてはやされて、憧れられて、とはいっても、
ヒット映画でのお話、作り物だったわけだけれど、そんなのわかっていても、
主役はってた俳優も、誰もが知るスーパースター、だから虚実あいまいに、
賞讃していた側も、されていた側も、その血湧き肉踊る世界から抜け出せない。

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時の経過は残酷、夢もいつかは醒めてしまう、けれど負けずに、まがいものの
おとぎ話とはサヨナラ、これからは本物のリアルな、奥深い文学的な世界を
演じることで、複雑で知的な舞台役者として名を馳せよう、その気持ち、
わかる気がします、悔しいものね、若くて愚かだった過去ばかり語られるのは。

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でも、自分で考え、行動して、まわりとの関係を構築してゆくのって、
すごく大変、円熟した大人になるって、そういうことだと思うのだけれど、
年齢を重ねれば、いろいろなしがらみもでてくるし、守るべきものもあるし、
スーパーヒーロー物語みたいに、単純な構成にはなっていない。

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はいあがりたい、と渇望するのは、自分だけではなくて、誰でもおなじ、
少しでも認められたい、たがいの自己顕示欲のバトルは、ショービジネスの
世界では熾烈なんでしょうね、映画、演劇の世界を、おもしろおかしく、
ときに皮肉たっぷりに、この映画じたいが、自虐的に、批評しているようで。

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そう、これ、この映画そのものが、配役だって技ありの、遊びっぷり。
実際にバットマン演じてた俳優が、バードマンでスターだった役を、
からだじゅう、せつなさいっぱい、みなぎらせて演じ、いきなり宙を舞い、
敢然と敵にむかってゆく勇ましさは、ヒーローそのもののイカれっぷり。

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ともかく楽しいんです、突如ありえない敵があらわれて、それを
ありえない力でやっつけて、て、映像で見せられると、思わずワクワク、
こむずかしいセリフの舞台劇で、人間の業みたいなのを語られるのと、
派手なアクションで、英雄のかっこよさ映されるのと、どちらも面白く。

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映画で、舞台で、演劇で、描くことのできるものの、振れ幅のゆたかさ、
人間のなさけなさ、かわいらしさ、せつなさ、というのが、 どこかしら
あたたかなまなざしを介して、つたわってもくるようで、深刻に愛を
語る世界も、能天気にバケモノをやっつける世界も、共存可能な懐の深さ。

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くたびれきったオッサンが、一瞬で、無敵のヒーローに、の場面は圧巻、
さまざまな世界観がリンクしてゆくカメラワークが、すばらしいです。
ヒーローの存在を信じたい気持ちを、後押ししてくれるようでもあって。
オスカー受賞は、映画への愛も手伝っているのかも。

シネプラザサントムーンにて4月

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡) 公式サイト
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# by habits-beignets | 2015-05-02 03:55 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 おみおくりの作法

人生のいくつかの過程で、さまざまな出会いや事件にいろどられても、
そのおわりの瞬間は、たったひとり、誰かに見守れるとはかぎらない。

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誰にも知られることなく、ひっそり亡くなっていたひとを弔うことに、
淡々と、粘り強く時間をかける、民生委員の姿は、口数すくないながらも、
丁寧な仕事ぶりには、なみなみならぬ情熱が感じられて、「調査終了」の
瞬間に、そっとはがす故人の写真の向こう側に、ドラマを見ているよう。

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きっと見知らぬ誰かのためになっていると、たぶん信じてきたのでしょうに、
誰にも評価されないまま、知らされた場所は、自分の住まいのすぐ向かい、
そこにどんな住人がいたかなんて、思いもおよばなかったのに、
足を踏み入れた部屋には、生前の暮らしぶりが、ありありと残されて。

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憑かれたように、もはや職務ともいえない熱心さで、故人の人生をさかのぼり、
彼の過去に関係したひとびとを探し、訪ねるのは、自らの人生をいつのまにか
重ねているのかも、まったくタイプのちがう人だったのに、そのやるせなさ、
せつなさの思いが押し寄せて、それを掬いとってあげたくなったのかも。

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そういえば、「調査終了」のファイルからはずした写真の故人たちは、
民生委員個人の記録に移されるのだけれど、そうしてできたアルバムは、
彼自身の過去を照らす、まるで親しい知り合いのよう、生前は知ることも
なかったひとたちを、彼は友として、いたわって慈しんで、敬愛する。

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それはまさしく、「作法」なのかも、たとえひとりの簡単な食事でも、
テーブルをきちんと整え、姿勢をただして、ナイフフォークをゆっくり使う、
ささやかな時間でも、粗末にあつかわない、人生の一瞬一瞬を、愛おしみ、
あきらめず、まじめに、静かに立ち向かう、行き先のわからない一人旅。

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見返りをもとめることなく、つましく暮らしていた身が、故人の人生に
寄り添うことで、あたらしい世界がひらかれて、ちいさな大冒険、愉しみ、
希望のきれはしに、瞳は輝いて、たとえ他人にはつまらない人生にしか
見えなくても、じつは真摯に戦った彼の魂は、たくさんのひとにつながって。

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電車での大冒険、車窓の進行方向が、シャレのよう。
終始、自らの過去を語らないままの主人公が、いい感じです。

シネプラザサントムーンにて4月

おみおくりの作法 公式サイト
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# by habits-beignets | 2015-04-14 18:08 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 シェフ 三ツ星フードトラック始めました

おいしそうなものがもう、たっくさんつぎつぎ登場、おもわず前のめり、
おいしいって、実際に口にいれなくても、伝わるものなんですね、きっと。
ニューオリンズの「ベニエ」、憧れのお菓子は、ただそれだけを味わうために。

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誰もが認める、腕利きのシェフ、そこへグルメで有名なブロガー食事の予告、
というところから物語は始まるのですが、ではとびっきりの新メニューで応戦、
の心意気を、保守的なオーナーに反対され、ああ雇われ人のかなしさですね、
たしかに難しい選択だし、一流職人でもマーケティングには自信なかったり。

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ちょっと私生活も問題ありそうで、誰からも愛される人気者なのにの鬱屈、
頼みの綱の仕事すら、どうやらご破算のなりゆきで、いよいよどん詰まりの
様相なのだけれど、だからこそ、開き直って挑戦できることもあるというもの、
未知の料理、未知の仕事、未知の世界、に心がひらかれてゆくきっかけに。

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キューバサンドイッチの移動販売、レストランのコースメニューとは別世界
のようだけれど、おいしさを求めて群がってくるひとたちを目の前に、
気の合う仲間、家族と、叱咤激励わらいながらの料理には、愛情が自然に
こめられて、もしや忘れかけていた原点、料理にたいせつなものが輝いて。

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そうたぶん、たとえ一流レストランであっても、多くの人がかかわれば、
それなりのしがらみ、コストやら戦略やら、守るべきものも生じてくるし、
ともかくおいしいものを誰かに食べてもらいたい、感動してもらいたい、
料理人のそんな純粋な情熱すら、行き場を失うことも、たしかにありそう。

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それならそんな面倒な職場から飛び出せば? 物語が指し示してくれる希望は、
ちょっと楽観的なおとぎ話ふうかもしれないけれど、でも、たびたび登場する
現代だからこそのツール、ツイッター、誰か専門家なんかに頼まなくたって、
自分たちで、いかに多くのひとたちに呼びかけることができるか、その可能性。

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そういえば、そもそもの話の発端も、ブログであったし「拡散」であったし、
傷ついて、追いつめられての恐ろしさも、もちろんそこにはあるけれど、
頭きりかえこっちから、利用するスタンスに立ってしまえば、あんがい無敵、
率直な、本物の、気持ちや誠意がそのままつたわってくれることも。

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一流シェフがほんとうにたいせつなもの、料理、家族、仲間、そして
自分に期待してくれる、たくさんのお客さんたちとの関係の再生、という
お話ですけれど、コンピュータ、インターネットなど、どんどん進化する
IT環境が、それをたすけてくれる、どこか提言、助言のようなおもむきも。

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いやともかく、行く先々でのおいしいものとの遭遇がたのしく、
おいしいものをとおして、いろんな人との交流やしみじみの回顧とか希望とか。
人生ってつまり、おいしいものを探し求める旅ってところなのかもですね。
今日はベニエをたべるだけ、の日もあって。

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エンドロール最後までご覧になるのをおすすめします。
料理のキモ、わかるかも。

シネプラザサントムーンにて3月

シェフ 三ツ星フードトラック始めました 公式サイト
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# by habits-beignets | 2015-03-19 16:56 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 毛皮のヴィーナス

舞台をライブで、ってほとんど観たことないのですけれど、その臨場感、
躍動感、緊張感を、堪能できる映画って、だからとても、ありがたいです。

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ポランスキー監督、そういえば以前も『おとなのけんか』で、舞台劇、
みごとに映画にしてくれてましたけど、今回もその魅力全開!引き込まれて。
冒頭の、いかにもこれから、あやしい物語に入り込んでゆくかんじ、
扉をひらけば、がらんとした劇場で、ひとりわめく、神経質そうな男が。

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舞台劇の演出家、その主演女優のオーディションに遅れてきた女優の二人が、
オーディションをやる、やらない、の、のっけからの丁々発止、哀願したり、
激高したり、なだめたり、愚弄したりの、めまぐるしいやりとり、一瞬にしての
互いの立場の変わりよう、さっきはすがってお願いしてたのに、今度は足蹴に。

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マチュー・アマルリックと、エマニュエル・セニエ、このおじさんおばさん
コンビ二人だけで、物語は展開してゆくのですが、一瞬たりとも目が離せない、
演出家と女優だったかとおもうと、ホテルで出会ってあやしい関係になる男女、
愛の崇高さを語る芸術家と社会的なものさしではかる婦人、あっちへこっちへ。

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ピンと張りつめてちょっとのゆるみもみせない、緊張の糸、物語の場所は、
仮に設置されたような、薄暗い舞台なのだけれど、二人のやりとりに従って、
大昔のアブノーマルな世界だったり、殺風景なオーディション会場だったり、
芸達者な二人の俳優が、まさに闘うように繰り広げる、多面性といったら!

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相手の言動によって、自分の未知の部分が引き出され、呆然とするまもなく、
さらに向こうの攻撃にさらされて、応戦するのが精一杯、そんな、面の皮を
一枚一枚、あっというまにはがされて、おろおろしたり抵抗したりの
みっともなさを、マチュー・アマルリックが表情ゆたかに、キュートにさえ。

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毛皮ではない、ぼろぼろニットのショールも、振る舞いしだいで、いかにも
危険なしろものに、売れない女優はいったい何者? 正体があかされそうで、
でたらめそうで、なのに、ときおり戦慄せずにはいられない、洞察力、理解力、
最初は愚かにしかおもえなかったものたちの、突然の存在感は、偶然それとも?

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息もつかせぬ1時間半、たった二人の舞台劇の奥行きが底なし沼のようで、
ラストはもう、彼のセリフじゃないけれど、ここがどこの世界だか。

ジョイランドシネマ沼津にて2月
※2月27日で閉館! いままでありがとう!※

毛皮のヴィーナス 公式サイト
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# by habits-beignets | 2015-02-26 18:26 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー