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映画 声優夫婦の甘くない生活

時は1990年、場所はイスラエル、いったいそこには、どんな世界が。

事件だったり世相だったりが、いちいち興味深くて、目が釘付けになりました。

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東西冷戦時代が終わりを告げ、ソ連から、多くのユダヤ人がイスラエルへ移住したとのこと。

そのなかに、老年の声優夫婦が、不安げであったり、決死の覚悟っぽかったり。

共産主義のソ連でも、それほど豊かな暮らしではなかったはずなのに、新天地のイスラエルでは、仕事を見つけるのもままならず、言葉だってよくわからず、の心許なさが。

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よほどの事情とはいえ、慣れ親しんだ国を捨ててきてしまった二人、こんなはずでは、とけっこうな失望が、胸をよぎったのでは。

作り笑いの祝杯のあと、呆然としながら、壁にぶつかりながら、それでも力を合わせて穏やかな日常を手に入れようと、あちこち当たってはみたものの。

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声優のお仕事って、やはり少し特殊ですものね。

これまでの長いキャリアを生かしたくても、時代は変わっているし文化も違うし、できる仕事は限られていて。

何とか見つけることができたようでも、奥さんのお仕事の、突飛なことといったら。

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ちょっとエッチな声のお仕事、最初は尻込みしたけれど、生活のためと飛び込んで、そしたらいつしか、ささくれだった自分の気持ちが、かえって慰められるように。

いかがわしい仕事のようでも、懐かしいロシア語の会話が、互いの心の痛みを和らげるような、そんな温かさが徐々に。


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一方の旦那さん、たまたま見つけたお仕事は、ちょっと怪しげなレンタルビデオ店。

吹き替えの経験を生かそうと、奥さんも誘うのだけれど、どうやら違法の気配が。

とはいえ、こちらも背に腹はかえられぬ、それに、輝かしい栄光を捨てきれない声の自尊心であったり。

どんな形でも、映画のためなら、という愛情が、もしや分別をなくすほどであったのかも。


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夫婦それぞれ、別々に過ごす時間のなかで、微妙に違う価値観や願望が、少しずつ露わに広がって、やがて爆発ぶつかって、というのは結婚生活が長い夫婦にありがちなことではあるのですが。

環境が変わって不安で寂しいのにどうして、という苛立ちが、抑えきれなくなるのでしょうね。

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けれど、うんざりして腹が立っても、互いの慣れ親しんだ声からは離れられないような強い絆が。

それは、ともに歩いてきた長い年月のためだけではなく、同じものに情熱を傾けられる同志のつながりが、何があっても消えないからかも、というのが、ラストで二人が並んだ場面で。


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あちこちユーモア散りばめられた楽しい作品は、過去の映画に対する愛情もたっぷり。

不織布マスクどころではない、ガスマスク携帯必須の世界でも、映画やデートを楽しむ人々の逞しさと健気さ。

どんな世の中だって、夢中で愛することができるもの、それを共有できる誰かががいれば、未来はそれほど暗くはないかも。


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シネプラザサントムーンにて2月


声優夫婦の甘くない生活 公式サイト


# by habits-beignets | 2021-03-05 11:12 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 ある画家の数奇な運命

つかみどころのない邦題、3時間超の上映時間、ちょっと尻込みしてしまいますが、安心してください、大傑作ですから、と叫びたくなりました。

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物語の舞台は、第二次大戦直前から、東西冷戦下までのドイツ。

始まりは、ちいさな男の子が、若い叔母さんに連れられて、美術館を見学するところから。

そして、彼がみまわれる悲劇や苦悩が、激動の時代とそのまま重なって。



ナチス政権下の、果てしなく凄惨だった戦争が終わって、表面上は平和のようでも、生き延びた人々には、それぞれが戦って負傷した心の傷跡が、たぶんまだ癒えないまま。

戦時中、慕っていた叔母さんがたどった運命を、彼がどこまで知っていたかわからないのだけれど、きっと察知しているような気配がたしかに。

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じつは、その悲劇に関わった人物が、愛する妻の身内、そんな現実にも気づいていないはずなのだけれど、誰かに怒りや悲しみをぶつけることなく、厳しい現実をそのまま受け止め、真実を求める彼の姿勢が、むしろ何よりの復讐のような。



東ドイツであっても経済的には恵まれた境遇なのに、なぜか西ドイツに移住する妻の両親が抱えた事情。

虚栄心を捨てられない、妻の父親こそが、彼を受け入れた東ドイツが否定する「ich(我が)」なのでは、という皮肉も感じられて。

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共産主義社会では、芸術も効用を求められるのですね、もはやスローガンとして。

画家の青年も、表現の自由を求めずにはいられず、妻をともなって西ドイツへ。

その葛藤が、とてもリアル、出てゆく者がいれば、残される者も。

残された側の立場、やるせなさ、悲しさ切なさも丁寧に描かれて。



「ich(我が)」とは、何でしょうね。

芸術とは何でしょう。



西ドイツに渡った彼は、晴れて自由に表現することができるようになったのに、本当に描くべきものが何なのか、かえって難しい課題に直面してしまうことに。

美術学校の教授の言葉が心に響きます「私に見せようと思うな。自分でわかるはずだ。」



大勢に評価されようと世間の流行に乗ろうとすると、無意識のうちに自分を表現することから逸れていってしまう。

自分が抱えている、描きたい本質を、見つけて解き放つこと、それこそが自分にしか成し遂げられない芸術にちがいないのに。



「真実は美しい」、幼い頃に叔母さんが語っていた言葉がよみがえって。

現実のむごさとの折り合いを見つけられず、彼女が落ちてしまった悲劇と対峙することこそが、彼に課せられた使命であり、そこで生まれる表現こそが、彼そのもののはず。

ようやくそれを見つけて生まれた作品は、まっすぐ真実を、観た者たちの心に無言で訴えかけ、激しい圧力さえ。



感じることで得られる、言葉にできない理解の大切さ。

芸術は、社会に必要不可欠なものですよねきっと。

わかりやすい効用などなくても、人々の心の良心や探究心に真実が訴えかける、たぶんそんな強い力が。



実在の画家がモデルになっているそうですが、虚実ないまぜ、何が事実かは秘密という話らしいです。

「善き人のためのソナタ」の監督作品、「善き~」も素晴らしかった、ことにラストが。


シネプラザサントムーンにて11月


ある画家の数奇な運命 公式サイト


# by habits-beignets | 2020-11-12 02:16 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 ブリット=マリーの幸せなひとりだち

63歳、主婦、日々くり返される、自分なりの暮らしの秩序がよりどころ。

とくべつな楽しみなどなくても、それで十分だと思っていたのに、不意に、地道に築きあげてきた暮らし方に、別れを告げることになって。



物語の主人公は、専業主婦歴40年の、ブリット=マリー。

夫はビジネス、自分は家事、そう割りきって、生活を整えるルーティンこそが、人生のすべてとばかりの、きちんと主婦さん。

彼女の必需品は、花柄の小さなメモ帳、そこには次々、やるべきことリストが律義に書き込まれて。


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けれど、そんな平穏な暮らしをぶち壊す事件がとつぜんに。

呼びだされて駆けつけた病院で、思いがけない場面に遭遇して。

とはいえ、さすが主婦歴40年の彼女、けっこうな貫禄。

ひどい現実をつきつけられても、もしや、そう、たぶん、心の片隅では、恐れていたり、覚悟していたのかも。

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というのは、さっそう鮮やかな身の振り方だから。

あれほど大切に、育んできた家庭生活を捨て去って、なんのツテもないのに、すぐさま職を探す行動力。

大胆なのか、やけっぱちなのか、亭主がサッカー好きだったというだけの縁で??ろくに知りもしないサッカーのコーチまでやってしまおうと、まるで未知の世界、名前も知らない田舎の町に、ひとり挑戦の旅へ。

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ところが、旅はきらい、と、執拗に家庭に引きこもっていたわりには、思いのほか、誰かれとも、フラットに物怖じせずに、うち解けてゆくような気配が。

これまで住んでいた世界とはまったく違う、文明がとどかない貧しい田舎町で、サッカーしか頭にない、やんちゃな子供たち相手に、戸惑いながら、四苦八苦しながらも、理解しようと努力して。

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本領発揮、という感じなんでしょうね。

じつは、これまでずっと、欝屈し続けていたという。

けっして夢なんて持たない、日々、現実を受け入れてこなすことこそが、あるべき人生なんだと、たぶん、強く思い込もうとしていて。

幼い頃の、美しいお姉さんとの思い出が、たびたび、語られるのですけれど、キラキラした少女時代に、自ら、悲痛な覚悟で、別れを告げたのかも。

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でも、単純な日々の暮らしを、絶えず清潔に、整頓しつづけるには、実際かなりな忍耐が必要だったはず。

そのささやかで静かな努力こそが、きっと今、彼女が、弱小サッカーチームを動かす原動力となって花開くことに。

つたなくても、諦めない努力は、子供だけでなく、まわりの大人たちをも温かな気持ちにさせるようで。

少しずつでも、気持ちがぶつかりあえば、奇跡を呼ぶ化学反応もいつか起こることに。

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物語の序盤、チームの女の子と、外壁の落書きを落とすシーンがあるのですが、そこでの、「落書き」と「サイン」のちがいの会話から、この女の子の只者ではない感じが、際立って。

「サインは、存在の証」。

終盤でも、女の子はとても大切なことを話してくれます、まだ、終わってない。

案外、ものごとを純粋に理論的にとらえているのは、くたびれた大人よりも子供の方であるのかも。

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示唆的な会話は、物語のはしばし、いたるとことに。

結末ちかく、車のなかで、ブリット=マリーが告げる内容が、わかりすぎて。

黙々と、円滑な暮らしのために、心身を捧げている者の、ささやかな願い。

家事をこなしつづける人たちは、たぶん皆おなじ気持ちなのでは。

誰かに家事をまかせている人には、ぜひ、聞いてほしい彼女の主張が。

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最初は、とんだトラブルで、長年、自分が大切にしてきた生活を捨てざるをえなくなった悲劇のようでもあったけれど、ピンチはチャンス、過去に決別した勇気を得たからこそ、本来持ち合わせていた能力を、ようやく見つけることができたみたいで。

そして、自分の本質も知ることに。

本当は、何がしたいのか、何をしてほしいのか、まっすぐ、誰にでも言える心意気を取り戻して。

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叩きのめされた、と思っても、諦めないで、一日、一日、自分を励まし、大切に暮らす気持ちを捨てなければ、自分にとって本当に大切なものを思い出し、あるいは、見つけて、いつのまにか、大逆転、てことは、意外にあるのかもしれません。

たった1点しか得点できなくても、それが自分には掛け替えのない勝利であったり。

私はここにいて、やれるのだ、やったのだ。

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原作は「ブリット=マリーはここにいた」、スウェーデンのベストセラー小説とのこと。

スウェーデン、都会も田舎も、なんとなくオシャレ。

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シネプラザサントムーンにて9月


ブリット=マリーの幸せなひとりだち 公式サイト


# by habits-beignets | 2020-09-04 13:12 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語

世界的に、とても有名な四姉妹の、とても有名な物語。

色あざやかに、牧歌的な風景が、目の前に繰り広げられて。


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おさらいですが、南北戦争真っ只中のアメリカ。

お父さんは従軍牧師で、長いこと留守。

心やさしいお母さんと、お年頃の四姉妹の、つましくも楽しい日常が。

怖そうで敬遠していたお隣さんに、同じ年頃の青年が登場して。

姉妹でも、それぞれ異なった性格の四人の娘に、ときめきや戸惑いが。



物語の中心は快活な次女のジョー、作家になって自立するのが夢。

ややロマンチストの長女のメグは、愛する人との家庭を夢見て。

三女のベスは物静か、自分よりもまわりの幸福に心をくだき、ピアノを弾くのが何よりも好き。

四女のエイミーはちょっとやんちゃ、負けず嫌いでジョーとはしばしば対立、けれど、家族のしあわせを切実に願っていて。



少女時代の彼女たちは無邪気、子供っぽくじゃれあって朗らかで賑やか。

自分たちで、脚本、衣装も作って、演劇なんて、クリエイティブでポジティブ!

けれど、まもなく大人の仲間入り、それぞれの目の前には苛立たしい障がいが立ちはだかって。

情熱や希望だけでは、あかるい未来を見ることが難しい現実。

なかなか傑作を書けないジョー、家計のやりくりに悩むメグ、慈悲深さが祟って病にかかるベス、豊かな暮らしのために結婚を考えるエイミー。



彼女たちが、それぞれ抱える葛藤や希望が、季節の移ろいとともに生き生きと描かれて。

ことさら貧しいわけではなくても、思いのままにはならない暮らしぶり。

愛情が、家族の存在こそが、最も大切だとわかっているのに。

おしゃれに着飾ってみたいし、美味しいものも食べたいし。

他人の評価が気になったり。

でもそんな、すべてが手に入らない境遇だからこそ、自分の未来のために何を選択すべきかが重大問題としていつも行く手を阻んでいるのかも。



ジョーったら、頑張ってるのに、真剣なのに、希望が打ち砕かれそうになったとき、つい、やさしい誰かに寄りかかってみたくなって、でも、それってただの甘え?

ジタバタもがく自分との闘いに勝ってこそ、誰かとともに人生を歩むことができるということのような。

エイミーの、わがままな拝金主義者のようで、でも実は、うちに秘めた純粋な心が、彼女を導く運命はやさしそうで。



美青年ローリーが、姉妹たちに翻弄されるさまはちょっとヘタレな感じですが。



一貫して描かれているのは、女性が、男性に頼らず経済的にも自立して、なりたい自分になるということが、いかに難しい時代だったか。

ジョーはラストに皮肉たっぷり、誰に対して? 私たちに対して?

それは多分、監督のグレタ・ガーウィグの問いかけでもあって。

姉妹たちはみな揃って、美しくたおやか、それでも足りない? いまの時代にも突き刺さってくる問題にちがいなく。



ともあれ、田舎町、都会、社交界での、美しくクラシカルな装いは魅力的。

それぞれのキャラクターやシチュエーションに似合う衣装の数々は、昔のファッション誌を眺めているかのような心地よさ。

ことに雪景色の中での、姉妹たちの行進は、愛らしく、まるで上等な絵本の一場面。

と、思ったら、アカデミー賞で衣装デザイン賞とってるんですね。



シネプラザサントムーンにて6月


ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語 公式サイト



# by habits-beignets | 2020-07-14 14:38 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢

ちょっとこの頃、孤独との向き合いかた、身につまされる課題であったような。

19世紀のフランスの片田舎、貧しい郵便配達人がたった一人で!33年かけて!築き上げた宮殿、いまでは国の重要建造物に指定された、建造物の実話とのこと。



ひたすら歩きつづけて、郵便を届けるんですね、この時代、山超え、谷超え、いかにも真面目そうなシュヴァル、ときおり、景色を楽しむ気配はあるけれど、寡黙で、局長から渡される、行き先不明の絵葉書を、やけに愛おしそうに眺めて、つましい暮らし、つらく悲しい出来事があっても、どこか淡々として見えて。

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他人と接するのが苦手らしく、言葉は少なく、それでも、気にかけてくれる人には、素直に心を寄り添わせて、静かに語らううち、ともに人生を歩む女性と巡り会い、会話を楽しむそぶりもないシュヴァル、心のうちに惹かれる彼女の、繊細な優しさ、やがて娘が誕生するのですが、どうしよう、シュヴァルは、あたふた狼狽えて。

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ふとしたきっかけから、娘かわいさに、あふれほとばしる愛情の、ゆくえが!

配達の道すがら、たまたまつまずいた、石の形は、たしかに奇妙だったけれど、それを掘り起こす執念からして、やはり只者ではなく、そして、なぜに宮殿を?

たった一つの石を見て、娘のために宮殿をと、どうして思いついたのでしょう。

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思いついたって、実現させないでしょう普通、と激しくツッコミたくなるけれど、シュヴァルは黙々、誰に理解されずとも、過酷であろうとも、迷わず怯まず頑なに、郵便配達だって相当な労働量だと思うのですけれど、そのあと、建築、大工仕事、図面もないみたいなんですよ、なのに、拾った石を積んだり、セメント細工したり。

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石も選んでいるらしく、探しながらの郵便配達、本や絵葉書の写真を参考に、いつも歩く道すがらの夢想を、現実にしようとばかりに、休まず、生き生きと、宮殿とともに成長してきた娘、アリスは、もはや小さな女王様、シュヴァルの側で、建築中の宮殿を遊び場に、ここが大好き、パパが大好き、親子3人の幸福が。

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他人と交わるのが、あれほど苦手であったのに、宮殿づくりは、シュヴァルの言葉、誰か、愛すべき人たちとの、交歓の手段であったのかもしれませんね、知り合いも、知らない人も、彼に惹かれて、いつの間にか、訪ねてくるようになってきて、遠い昔に、気持ちを伝えることができなかった息子とも、穏やかな時間が訪れて。

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大切な気持ちがあるのに、それを伝えるのって、たしかにとても、難しい、自分のすべてをそのまま、わかってもらえるのも、無理そうだったり怖かったり、でも、ただ何かを信じて一心に、美しいものを築き上げる姿勢には、吸引力が、暖かな視線がそこかしこから、集まってきて、それは誰をも絶望の淵から救う力に。

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かつては、たぶんしまいこんでいた、悲しみや苦しみ、感謝や喜び、自分の感情を、まっすぐ曝露できるように、表情ゆたかに、つたえられるようになったのは、まわりの優しさと、それに支えられた自分に、自信みたいなものを感じたから、なにかをやり遂げ、その仕事を愛してくれる人たちを知ることができたからでは。

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そりゃあ人生観、変わりますよね、ものすごい細工の宮殿だもの、愛なしでは無理、素朴派建築物、と称されるようですけれど、かの宮殿が、どんな愛溢れる人たちの、微笑ましいやりとり、悲しみとの戦いを、見届けたのか、命が吹き込まれたように。

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家族との暖かなひととき、職場で称えられたときの、シュヴァルの表情が愛らしく、奥さんも、娘も、息子も、それぞれの接し方での愛情表現が、胸を打って、冒頭の、息子さんとの、切ない場面が、最後まで、尾を引いて、印象に残って。

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5月下旬の映画館は、一席ごと空けてのチケット、いえ、そもそも少人数でしたが、映画館で大画面で鑑賞するのって、やっぱり気持ちがよいですね。


シネプラザサントムーンにて5月


シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢 公式サイト



# by habits-beignets | 2020-05-28 16:49 | シネマのこと | Comments(0)

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