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映画 ある海辺の詩人―小さなヴェニスで―

ヴェニス。水の都のイメージにはどこか華やかさを覚えるけれど、
映画の舞台のキオッジャは、うら寂しさを醸しながらの、たおやかさ。

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最愛の息子と暮らすために、いまは遠く離れて孤独な暮らしを強いられる
おとなしげな中国女性が、命じられるまま、ちいさな酒場で働くすがたが、
戸惑いつつも地元漁師のおじさんたちと馴染んでゆく過程が、微笑ましく。
妙に可憐なんです彼女、酒場に似つかわしくなさそうな出で立ちなのに。

化粧気なく少女のよう、遠慮がちに表情を変えるしぐさには、なにかを
秘めていそうなほのかな輝き、ちょうど、暗がりで真っ赤な花びらの灯明を
水辺にうかべたときの、せつなさを訴えてくる光のよう。だから、こころの
どこかに、おなじ芯をうずめている者は、もらい火がほしくなるような。

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おだやかそうではあるけれど、寒々しい潟で、漁にたずさわる老齢の
男たちの、たくましさと寂しさは、遠くに雪の山脈を背景にひろがる
海面のかすかな波だちを、そのまま、からだの奥にたたえていそうで、
風にあおられれば、とつじょ波ははげしく、海底のうねりがあらわれて。

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いきなり水かさが増し、床まで浸水した酒場でも、客の誰もが慌てないで
いつもとおなじにくつろぐのに、店ではたらくシュン・リーだけが戸惑い、
けれど、こころがかよい始めた老漁師ベーピの励ますようないたずらが、
馴染み客がつどう、ありふれた酒場を、つかのま、詩情ただよう幻想に。

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互いの境遇を、写真をみせながら、とつとつ、語りあうさまは、
ひそかに抱えていた孤独を、いたわりあう気配が感じられて、それを
愛情とか、罠だとか、型にはめようとする周囲に、汚されるのが気の毒
だけれど、愛の対象をきちんと定めないと、踏みつぶされてしまうかも。

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イタリア語をたどたどしく喋る、シュン・リーの、透明な声が、詩を詠む
のにとても、ふさわしく、にわか詩人の老漁師に、慈しまれるのが自然で、
水面にうかぶ灯火を、大切ななにかの、とむらいなのだと、共感できる
魂のむすびつきが、かたちあるつながりは断たれても、どこかでまた。

ジョイランドシネマ沼津にて、4月

ある海辺の詩人―小さなヴェニスで― 公式サイト

by habits-beignets | 2013-04-29 21:57 | シネマのこと | Comments(0)

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