映画 東ベルリンから来た女
2013年 05月 28日
ベルリンの壁崩壊以前の東ドイツで、思想や発言の自由が奪われていることの
圧迫感と恐怖は、これまでにもたびたび映画で観てきたけれど、今回ちょっと
ちがう印象、というのは、体制への反抗がテーマではなくもっと身近ななにか。
自由と豊かさに惹かれて西側へ行こうとしたけれど、政府に拒絶された女医が、
田舎の病院へと左遷されてきたところから、物語ははじまるのだけれど、
このヒロイン、お医者さんなのに煙草スパスパ、無愛想でぶっきらぼう、
あえて周りと壁をつくって、なのに、一転、患者への対応のやさしさったら。
病院のひとたちは、みな優しそうだし、木々が風にあおられる風景ものどか、
たしかに裕福そうなひとは皆無で、華やかさはないけれど、それほど不自由な
生活にもみえなくて、でもときおり、かいま見られる不気味さ、人民警察、
少女をむりやり押さえつける、容赦ない態度など、女医のやりきれない表情。
そしてぱっと、西側の人間がでてくると、如実にわかる、東側のまずしさ、
欲しいものを手に入れることが、むずかしい世界での、物足りなさ、それに
慣らされるように、うえから押さえつけられる、屈辱感。いつも仏頂面の
ヒロインが、つかのま恋人と会えたときの、弾ける笑顔こそ、西側への希望。
それでも、そんな窮屈な世界でも、与えられた使命をまっとうすることに、
誠実なひとたちはやっぱりいて、可能な限りの設備をととのえ、休みも返上で
患者のために、わが身をけずって尽くす同僚の医者の姿に、それまでただ
ひたすら、西側での生活を夢見ていた、ヒロインのこころに、揺らぎが。
自らの手足をしばるような体制は、やはり、憎むべきものかもしれないけれど、
いま目の前で苦しんでいる誰かが、自分のちからを求めていると、知ったとき、
いまいる場所で、自分にできることが、たしかにあると、思い知らされたとき、
なにか、啓示みたいなものが、おりてくる瞬間が、ありそうな、そんな気が。
旧東ドイツ、これまで、なんとなく、暗くて陰険なイメージで描かれていた
ような気がするのですが、東欧のつつましくて、きよらかなかんじが、風景に
映っていて、薄やみの海の荘厳さ、林道をぬける自転車のかろやかさ、それから
ファッション! 膝丈のワンピースとカーディガン、欲しい! 手提げ籠も!
さらに、診察のお礼にいただいた、ズッキーニ、トマト、それでラタトゥイユを
つくろうとする、ちいさなキッチンの、いかにも東欧チックなかわいい調度品。
素朴なうつくしさと、身近に存在する使命感の尊さ、じわり響く作品でした。
ジョイランドシネマ沼津にて、5月
東ベルリンから来た女 公式サイト
圧迫感と恐怖は、これまでにもたびたび映画で観てきたけれど、今回ちょっと
ちがう印象、というのは、体制への反抗がテーマではなくもっと身近ななにか。
自由と豊かさに惹かれて西側へ行こうとしたけれど、政府に拒絶された女医が、
田舎の病院へと左遷されてきたところから、物語ははじまるのだけれど、
このヒロイン、お医者さんなのに煙草スパスパ、無愛想でぶっきらぼう、
あえて周りと壁をつくって、なのに、一転、患者への対応のやさしさったら。
病院のひとたちは、みな優しそうだし、木々が風にあおられる風景ものどか、
たしかに裕福そうなひとは皆無で、華やかさはないけれど、それほど不自由な
生活にもみえなくて、でもときおり、かいま見られる不気味さ、人民警察、
少女をむりやり押さえつける、容赦ない態度など、女医のやりきれない表情。
そしてぱっと、西側の人間がでてくると、如実にわかる、東側のまずしさ、
欲しいものを手に入れることが、むずかしい世界での、物足りなさ、それに
慣らされるように、うえから押さえつけられる、屈辱感。いつも仏頂面の
ヒロインが、つかのま恋人と会えたときの、弾ける笑顔こそ、西側への希望。
それでも、そんな窮屈な世界でも、与えられた使命をまっとうすることに、
誠実なひとたちはやっぱりいて、可能な限りの設備をととのえ、休みも返上で
患者のために、わが身をけずって尽くす同僚の医者の姿に、それまでただ
ひたすら、西側での生活を夢見ていた、ヒロインのこころに、揺らぎが。
自らの手足をしばるような体制は、やはり、憎むべきものかもしれないけれど、
いま目の前で苦しんでいる誰かが、自分のちからを求めていると、知ったとき、
いまいる場所で、自分にできることが、たしかにあると、思い知らされたとき、
なにか、啓示みたいなものが、おりてくる瞬間が、ありそうな、そんな気が。
旧東ドイツ、これまで、なんとなく、暗くて陰険なイメージで描かれていた
ような気がするのですが、東欧のつつましくて、きよらかなかんじが、風景に
映っていて、薄やみの海の荘厳さ、林道をぬける自転車のかろやかさ、それから
ファッション! 膝丈のワンピースとカーディガン、欲しい! 手提げ籠も!
さらに、診察のお礼にいただいた、ズッキーニ、トマト、それでラタトゥイユを
つくろうとする、ちいさなキッチンの、いかにも東欧チックなかわいい調度品。
素朴なうつくしさと、身近に存在する使命感の尊さ、じわり響く作品でした。
ジョイランドシネマ沼津にて、5月
東ベルリンから来た女 公式サイト
by habits-beignets | 2013-05-28 06:50 | シネマのこと | Comments(0)