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映画 それでも夜は明ける

実話がもとになっているということなのですけど、怖いですね、いきなり拉致。
自分の身は安泰だと、世の中を信頼していたのに、裏切られた絶望感。

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奴隷制が南部では認められていた時代に、北部では裕福な黒人が存在していた
という事実が、ちょっと異様な気がしたのですが、暮らす土地によって文化とか
慣習とか、本当にちがうんですね、自分を守ってくれている社会から、一歩でも
外へ出てしまったら、誰も助けてくれない、怖い場所だということが如実に。

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最初はそれが信じられない、すぐに自分の言い分が認められるだろう、と希望を
もっていたのが、じきに、所有され、虐げられる事実を受け入れざるをえず、
その場その場で、ありったけの知恵をしぼって、生き延びることのみ執心して、
じっと待ち続けながら、稀有なチャンスをつかみとろうとする、その痛ましさ。

自己の資質も経歴も隠して暮らす、孤独感と閉塞感、意思を表明することも
許されず、暴力も甘んじて受けなければならない境遇は怖いけれど、じつは
悪意だけではなく、正義感や憐憫の気遣いも存在するのに、強きもの、または、
富の力には逆らえず、それぞれの本心が反故にされる、救いのない怖さ。

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誰か、ひとりでも、白人でも黒人でも、それがおかしいと叫ぶ人間がいれば、
事態はあっというまに打開されそうなのに、暴力に屈する世界、金銭でなんでも
手に入るという幻想が妄信されつつある社会、その気味悪さをかんじるとき、
これはこの時代、この地方だけの問題ではないのでは、という気もしてきて。

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奴隷たちが強いられる労働も、綿をつむ作業などそれそのものは、生きてゆく
生業として健全なのに、問題はそのしんどさを誰かに理不尽におしつけること、
それは誰しも犯しがちな、あやまちなのでは。他者を利用したい、他者より
優位に立ちたい、その堕落した欲求が、歯止めを失ったとき、不条理な世界が。

他者を虐げることで、自分の存在価値をたしかめ、虐げられた者たちの復讐を
おそれることから、ますますその暴力の手をゆるめることができない、それは
過去の奴隷制だけではなく、いまでもあちこちで行われているホロコースト、
そこで、いつか自由になれると希望をもちつづけて、生き残ることの困難さ。

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自分を守るのには、自分ひとりの力では難しい、ひとりでも誰か他人の
良心に味方してもらえなければ難しい、その良心の存在を恐れずに信じる
ことこそが、どんなに追いつめられても、最期には突破口になる物語が。

シネプラザサントムーンにて5月

それでも夜は明ける 公式サイト

by habits-beignets | 2014-06-03 22:25 | シネマのこと | Comments(0)

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