映画 オン・ザ・ミルキー・ロード
2017年 11月 28日
外国のおとぎ話の感じそのままなんですが、そこにはじつは緊迫した銃撃戦が。
ロバにまたがってミルクを運ぶ、おじさんが泰然と登場、そこが戦場だなんて、
信じられない雰囲気なんですけれど、戦争がいまここにある、というのは、
案外そんな、アンバランスな空気が、さりげなく無慈悲に同居していることなのかも。
やかましい大きな古時計に、ひとが噛まれて大騒ぎしたり、難民キャンプから、
美女を戦地にいる兄の妻にと連れてきたり、休戦で浮かれたパーティで踊り狂い、
恋の火花が散り、いきなり銃を撃ちまくって、結婚式の宴には、陽気に集い。
ところが絶望的に不穏な空気が、黒ずくめの男たちとともに空から降ってきて。
そんなに深刻な話ではないと思って見ていたのに、容赦なく、あたり一面黒焦げに、
びっくりの展開が繰り広げられて、休戦じゃなかったっけ? のどかさが一変、
まるまる太った大蛇が、ミルク運びのおじさんへの恩返しなのか、神のたすけか、
生きるか死ぬかの追いかけっこが、ひろびろの大地を果てしなく、どこまでも。
戦争とか殺戮とかってなんなんでしょうね、彼らの右往左往を見守っているうち、
傍観者と当事者の、背負っている世界の落差の大きさが、もはや滑稽なほど。
ひとびとが殺しあっても、ガチョウはがあがあ、タカは悠々、ロバはわけわからず、
釣り人や羊飼いは、きょうを生き延びる糧だけのために、いたいけな生命と向き合って、
なんのために誰を追いかけているのか、なんのために殺めなければならないのか、
相手の名前も来し方もきっと知らないのに、ためらいなく傷つけられる、異常さ、
はたから眺めてしまえば、ただ嘆かわしく愚かしいだけなのに、おとぎ話でさえ、
ほんのちょっとの行き違いで、スリルサスペンスホラーと同居してしまう恐ろしさ。
へんてこリアルな、とびだす絵本さながらの冒険ムービーであったりもして、
メルヘンちっくな戦地のおはなし、それでも、ラストの、少しずつ少しずつでも、
悲劇を埋めて、のどかでやさしい日々にたどりつこうと歩みつづける姿がせつなく。
エミール・クストリッツァ監督の作品は、セルビア出身だからこその、戦争に対するリアルな
感性なんだろうなと思わせられます。
by habits-beignets | 2017-11-28 00:34 | シネマのこと | Comments(0)