映画 ゴッホ 最期の手紙
2018年 01月 16日
画家ゴッホの、色あざやかで情熱みなぎるタッチが、そのまま生命を吹き込まれ、
生き生きとドラマをつむいでゆく、彼が描いた世界が、彼の人生をあぶり出して。
ハッとうれしい驚きから、物語に入り込む快感は、見たことのある名画の数々が、
動きだし、語りかけ、みずから作家の謎を探るための、案内をしてくれるから、
大胆な筆致そのままの、星がまたたく夜空は、おとぎ話の雰囲気ではあるけれど、
すでに亡くなった画家に、思いを寄せる、それぞれの登場人物は、確かに存在して。
生前ゴッホが送ったけれど、届かなかった手紙を、彼と親交のあった郵便配達人が、
宛先である弟のテオに、なんとか届けるように、息子のアルマンに託すところから、
ゴッホの人生、ひととなりを探る、ささやかな冒険が繰り広げられるのですが、
彼と関わったひとたちが、それぞれ、まったく違う印象のできごとを、暴露して。
疫病神だと眉をひそめる者、静かな紳士だったと微笑む者、天才だったと讃える者、
異常者だったのか、まともだったのか、行き詰まっていたのか、幸福だったのか、
孤独だったのか、満ち足りていたのか、自殺だったのか、他殺だったのか、
同じ事件でも、見ていた者の視点によって、これほど、解釈が異なるものなのか。
もはや当人に会ってたしかめる術もなく、聞いた話のつぎはぎを、じっと見つめ、
あれこれ入れ替え、並び替えるような思考の作業で、画家の真実の姿に迫ろうと、
あたかも、画家が描いたかのような人物、世界そのものが、うごめくうちに、
彼が本当は何を見て、何を描こうとしていたのかは、わからなくても感じることが。
美しいんですよね、ちょっと奇妙なかんじも面白くて、アニメーション、
静止画として今まで観ていたものが、会話したり、悩んだり、暴れたり、
筆づかいのままの、灯りのゆらめきの不思議さ、よくもこんな作り込みを、
62450枚の動く油絵!の威力、情熱の結集のものすごさが、ともかく
思いつきはともかく、実際に作成してしまう執念はちょっと、常規を逸して、
実在の俳優が演技したものを、コマごとに油絵に変換、またそれをつなげて、
580枚描いても、ほんの1分弱、の過酷さは、想像を絶して。
それにしても、ゴッホが画家として活動していた年月の短さ。
そして描いた絵の数と、生前売れた絵の数の、驚きの数字。
その驚異的な才能を、崇めるよう、いたわるよう、いつくしむよう、
彼の届かなかった手紙を、全力で読み解こうとでもしたかのような、油絵たち。
ひとは、生きているうちには、自分の成した功績を、知ることができないのかも。
自分の手を離れたあとで、それは、正当に評価される運命だったりするのかも。
シネプラザサントムーンにて1月
by habits-beignets | 2018-01-16 14:45 | シネマのこと | Comments(0)