映画 万引き家族
2018年 08月 12日
なんともいえないタイトルですよね、いかにもダーティーな世界っぽく。
けれど、そこには、やさしさが、よろこびが、微笑ましさが、確実にあって。
いかにも無邪気な少年が、でも、その眼光は、異様に鋭く、口はぎゅっと固く結び、
たいせつな任務を、着実に遂行、おまじないめいたルーチンも、まるで神聖な祈り、
家族の命運を、一手に引き受けてでもいるかのような振る舞いは、もはやけなげで、
咎めることすらためらわれて、それ、犯罪だよ、と諭すのは、野暮なようにも。
だって、怠けて遊んで、誰かを傷つけようとしているわけではないんですもの、
少年の家族は、互いにいたわり、寄り添い、大人はきちんと働いてだっている、
なのに、暮らしてゆくには足りないのだ、生きてゆくのに食べたり、装ったり、
ときには寛いで、健やかな身体と心を保つのに、わずかな賃金ではまかなえない。
悪いことだっていうのは承知だけれど、でも、それなりに真剣に生きているのに、
たかが杓子定規の善悪論に、どれほどの価値があるっていうの?
盗みは悪いっていうけれど、たとえばその、店に並んでるものって、誰のもの?
自分の子供を、大切にできない親がいる世の中の、何を信じればいいっていうの?
欲しいもの、というよりも、本当に必要なものだけを、きちんと見極めて、
ときには、人生をかける覚悟で、奪おうとする、彼らの生き方は、むしろ純粋で、
うわべだけを取りつくろった社会の、窪地のような一軒家は、雑然としていても、
とても豊か、すぐ隣にいつも誰かがくっついて、鬱陶しいけど、みな愛しくて。
それでも、いつまでも家の中だけで生きてゆけるわけもなくて、少年も、少女も、
外の世界の誰かと、関わる機会はやっぱりどうしても、だってまだ、何も知らない、
いろんな人の、いろんな気持ちや、いろんな人生、想像したり、わかってみたくて、
ひろい世界には、もっと自分の味方がいるかも、正しい道が、ほかにあるのかも。
大人になるまえの、避けて通れない、疑問ばかりの日々、痛くても、悲しくても、
本当のことに、立ち向かってゆきたい抑えられない欲求があって、我慢できなくて、
それまで信じていた世界を、いっそ壊してしまいたくなって、どこか、別の場所で、
自分ひとりの力で、やっていけるか、飛び出してしまいたくなるのかも。
家族ってたぶん、そんな状況でも、離れても、どこかで強くつながっているものでは、
つながり方は、それぞれだろうけれど、ふと懐かしく、ときにそばに寄り添って、
たとえ世間では、許されなくても、互いの気持ちを思いやる習慣は、何よりも大事で、
法律とか、常識とか、固定観念では、とらえられない、生き物めいた集団なのでは。
微笑ましく、おしゃれ心って、やさしさと通じる、大切なもののような気配。
シネプラザサントムーンにて8月
by habits-beignets | 2018-08-12 19:35 | シネマのこと | Comments(0)