映画 女王陛下のお気に入り
2019年 03月 09日
うわべは、美しく気高く知性的、けれど、ひと皮めくれば、無尽蔵の欲望、陰謀、
きらびやかな世界ゆえなのか、なかなかのグロテスクぶりが、妙な魅力を放って。
豪華絢爛の貴族社会が描かれる一方で、どこか生臭く漂う、生き物の気配、
体裁をとりつくろう、政治や社交だけではなく、生活の場でもある王宮の、闇、
暗がりで、使用人も貴族も政治家も入り乱れての容赦ない死闘が、繰り返されて。
そもそも、アン女王とレディ・サラとの、ふたりだけにしか通じない呼び名とか、
幼なじみならではの、昔話の含み笑いとか、嫌らしく、いかがわしく、怪しげで、
それが、国民の生命にもかかわる政治とも、結びついてしまうのが、恐ろしく、
だから、とつじょ現れた、サラの従妹、若いアビゲイルが、爽やかな風のように。
ところが、この世界で生きてゆく住人は、誰しも野心と策略なしにはいられずに、
やられたら、やり返す、の徹底した反骨精神が、日常どこでもぶつかり合い、
感謝や尊敬や同情の言葉や態度も、裏があって当然、アビゲイルも言うに及ばず、
身の破滅の危険すら、顧みず、大胆で過激な身のこなしは、あまりにも鮮やかで。
最初は、女王を意のままにあやつっているかのように振る舞う、レディ・サラの、
高慢さが、鼻について、なんとか懲らしめてやりたい気持ちに、なったけれど、
みるみる、その地位が脅かされ、不安や焦りの色が生じてくると、いささか不憫、
ほんのちょっとの純粋さや、いじらしさが、やや哀れに感じられて、せつなくも。
女性たちの恋情、みたいにも描かれているけれど、何かを激しく欲するって、
わけわからないまま狂ってしまうことに、躊躇しないで、突き進むことかも、
むしろ、我にかえって、虚しさを覚えることが、恐ろしく、痴情さえ命づな、
平穏さや静けさは、不安や恐怖を呼び起こし、ありふれた幸福は、退屈に。
宮殿でうごめく、それぞれが、勝ちとるべく躍起になっているのは、女王の寵愛、
彼女に愛されるかどうかが、自らの立場や生命までをも、決定づけることに、
それを知るからこそ、あっちにこっちに揺れる素ぶり、わがまま放題の女王さま、
けれど、引きこもりの、すさんだ姿には、言い知れない孤独の哀しみの、暗い影。
17匹のうさぎを部屋に飼う異様さが、アン女王の心の傷の深さを象徴して、
本当のあたたかな愛情を、得られない境遇の、やりきれなさが、疲弊の色濃く、
呆けた、その表情を、素朴なひとりの未亡人にみせて、権力はあっても、虚しく、
だから、当たり散らすのもやむなし、当たり散らされる相手も、やむなし、と。
ひどい振るまいも、それは当人の寂しさゆえ、と思い至ると、現実の自分を反省。
かなりエグいストーリーの映画なのだけれど、意外にも史実に即しているらしく、
びっくりの恐ろしさ、演出はしてるだろうけれど、登場人物の顛末は当たってて。
演者、とくに女性陣、素晴らしかったですね、女王様はオスカー受賞、よかった。
シネプラザサントムーンにて2月
by habits-beignets | 2019-03-09 04:09 | シネマのこと | Comments(0)