映画 シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢
2020年 05月 28日
ちょっとこの頃、孤独との向き合いかた、身につまされる課題であったような。
19世紀のフランスの片田舎、貧しい郵便配達人がたった一人で!33年かけて!築き上げた宮殿、いまでは国の重要建造物に指定された、建造物の実話とのこと。
ひたすら歩きつづけて、郵便を届けるんですね、この時代、山超え、谷超え、いかにも真面目そうなシュヴァル、ときおり、景色を楽しむ気配はあるけれど、寡黙で、局長から渡される、行き先不明の絵葉書を、やけに愛おしそうに眺めて、つましい暮らし、つらく悲しい出来事があっても、どこか淡々として見えて。
他人と接するのが苦手らしく、言葉は少なく、それでも、気にかけてくれる人には、素直に心を寄り添わせて、静かに語らううち、ともに人生を歩む女性と巡り会い、会話を楽しむそぶりもないシュヴァル、心のうちに惹かれる彼女の、繊細な優しさ、やがて娘が誕生するのですが、どうしよう、シュヴァルは、あたふた狼狽えて。
ふとしたきっかけから、娘かわいさに、あふれほとばしる愛情の、ゆくえが!
配達の道すがら、たまたまつまずいた、石の形は、たしかに奇妙だったけれど、それを掘り起こす執念からして、やはり只者ではなく、そして、なぜに宮殿を?
たった一つの石を見て、娘のために宮殿をと、どうして思いついたのでしょう。
思いついたって、実現させないでしょう普通、と激しくツッコミたくなるけれど、シュヴァルは黙々、誰に理解されずとも、過酷であろうとも、迷わず怯まず頑なに、郵便配達だって相当な労働量だと思うのですけれど、そのあと、建築、大工仕事、図面もないみたいなんですよ、なのに、拾った石を積んだり、セメント細工したり。
石も選んでいるらしく、探しながらの郵便配達、本や絵葉書の写真を参考に、いつも歩く道すがらの夢想を、現実にしようとばかりに、休まず、生き生きと、宮殿とともに成長してきた娘、アリスは、もはや小さな女王様、シュヴァルの側で、建築中の宮殿を遊び場に、ここが大好き、パパが大好き、親子3人の幸福が。
他人と交わるのが、あれほど苦手であったのに、宮殿づくりは、シュヴァルの言葉、誰か、愛すべき人たちとの、交歓の手段であったのかもしれませんね、知り合いも、知らない人も、彼に惹かれて、いつの間にか、訪ねてくるようになってきて、遠い昔に、気持ちを伝えることができなかった息子とも、穏やかな時間が訪れて。
大切な気持ちがあるのに、それを伝えるのって、たしかにとても、難しい、自分のすべてをそのまま、わかってもらえるのも、無理そうだったり怖かったり、でも、ただ何かを信じて一心に、美しいものを築き上げる姿勢には、吸引力が、暖かな視線がそこかしこから、集まってきて、それは誰をも絶望の淵から救う力に。
かつては、たぶんしまいこんでいた、悲しみや苦しみ、感謝や喜び、自分の感情を、まっすぐ曝露できるように、表情ゆたかに、つたえられるようになったのは、まわりの優しさと、それに支えられた自分に、自信みたいなものを感じたから、なにかをやり遂げ、その仕事を愛してくれる人たちを知ることができたからでは。
そりゃあ人生観、変わりますよね、ものすごい細工の宮殿だもの、愛なしでは無理、素朴派建築物、と称されるようですけれど、かの宮殿が、どんな愛溢れる人たちの、微笑ましいやりとり、悲しみとの戦いを、見届けたのか、命が吹き込まれたように。
家族との暖かなひととき、職場で称えられたときの、シュヴァルの表情が愛らしく、奥さんも、娘も、息子も、それぞれの接し方での愛情表現が、胸を打って、冒頭の、息子さんとの、切ない場面が、最後まで、尾を引いて、印象に残って。
5月下旬の映画館は、一席ごと空けてのチケット、いえ、そもそも少人数でしたが、映画館で大画面で鑑賞するのって、やっぱり気持ちがよいですね。
シネプラザサントムーンにて5月
by habits-beignets | 2020-05-28 16:49 | シネマのこと | Comments(0)