映画 ノマドランド
2021年 05月 30日
ホームレスじゃない。ホームレスではなくて、ハウスレスよ。
主人公の初老の女性、ファーンが、以前の教え子に答えた言葉です。
今は住む家を失い、車であちこち移動しながらの暮らしぶりになってしまったので。
けれど、もとは貧困というわけでは決してなく、ごく普通に教育を受けて、仕事に就いて、愛する人と結婚して、つましいながらも特に不自由なく、社宅暮らしを楽しんでいたんです。
それが、例のリーマンショックのあおりを受けて、街ごと消えてしまうような形で失業、夫も死亡、生活の場を失っての放浪の生活に。
とはいえ、本人とても逞しく、悲劇のヒロインぽくは見えないのですけれど。
使い古したキャンピングカーに、必要最低限の生活道具を積んで、繁茂期の仕事を探しては渡り歩き、同じような境遇の人たちと交流があったり、やや不便で窮屈そうに見えなくはないけれど、自分の力で生き抜いてゆく、潔さが感じられて。
他人からはオンボロで、買い換えるべきだと見える車も、少しでも暮らしやすいようにと様々な工夫、細工が施され、あるいは、大切な思い出の品々が積み込まれていたり、そこには確かな愛情が、生前の夫の気配や、少女期のあたたかな夢の跡形が。
だから、家とは見えなくても、それは確かにホームに違いなく。
行く先々で、ご近所づきあいぽく親交を温める人々も、他人に頼らず自分の力で生き抜いてゆく誇りを大切にしている姿勢が、静ひつに、あるいは猛然と。
そこに、若者はほとんど見当たらず、みな、老いを抱え、病や死を意識せずにはいられない境遇のようなのに、厳しい人生に悲しみを覚えながらも、自由な人生を大切に。
インターネットの世の中だから、の豊かなつながりがあったりも。
今度いつ会えるかわからないような別れでも、遥かな場所での素晴らしい景色が送られてきたり、普通の「家」での生活に誘われたり。
ギリギリの生活でも、前向きに暮らしていれば、選択の機会は、いつでも訪れて。
日々、自分には何が必要か、何が相応しいのか、大切な守りたいものは何なのか。
絶えず自問自答しながら、生きる場所を探すのは、もしやとても充実した人生なのでは。
喪失の悲しみから逃れられなくても、まっすぐそれを受け入れる心持ちは、尊くて。
それでも、金銭を賄わなければならない不自由さに、縛られてしまうのが残念だけれど。
放浪も、まるで長い旅行、むしろ神様から与えられた生命を、全うさせているような暮らしにも見えるけれど、人間社会との折り合いには、歪な印象もあって。
個々にとっての豊かな暮らしって、何だろう、考えさられてしまったり。
ところで、放浪先の、あちこちの名勝が見られて、圧倒されました。
シネプラザサントムーンにて3月
by habits-beignets | 2021-05-30 18:30 | シネマのこと | Comments(0)