カテゴリ:シネマのこと( 99 )

『マッピー』用ボーダー

映画 チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛

いま、自分の幸福の度合いが、じゅうぶんで何をも必要としないほどなのか、

たしかに何かが足りなくて、それを欲して求めるべきなのかって、むずかしい。

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修道院で暮らしていた孤児のソフィア、裕福な商人の中年男、コルネリスに、

嫁ぐのですが、修道院長の言葉にも表れているように、要は、就職なんですね、

おそらく、若さ、美しさ、体丈夫さ、真面目で慎み深いところを、買われて、

貧しい少女から、お屋敷での若奥さまの暮らしになって、それはありがたく。

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就職ですから、彼女には課された仕事があるわけで、むろんそれは、あとつぎ、

お家を絶やさず、財産がきちんと受け継がれることが、夫には大切な問題、

ともに暮らす夫婦ですから、互いを思いやるあたたかな愛情は、あるけれど、

しばしば男女におとずれる、狂おしい熱情は、惜しいことに欠けらもなくて。

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じっと、射ぬくほどに見つめられれば、不意打ちに、官能への扉が開かれて、

もはや、抗うことは、やはり難しく、一瞬のためらいはあっても、なのよね、

夫のやさしさに感謝して、彼へのいたわりの気持ちを、変わらず持ち続けても、

若い画家に、走りたい心と体を、欺くことができないのは、純粋で未熟だから?



先のことはわからなくても、今この瞬間の喜びと勢いで、不確かな幸福のために、

大博打を打ってしまうのは、バブルそのもの、なのかも、落ち着いて考えれば、

安心して穏やかに暮らしてゆけることの、大切さを、省みることができるのに、

彼こそすべてと、夢中になっているときには、現実の幸福を見逃してしまう。



それにしても、チューリップの美しさが、人々を狂乱の世界へと招いたなんて、

美しく希少なもののために、一瞬のうちに莫大な金が、動いたりするんですね、

そんなもの、いつかそれほどの価値がなくなる、と冷静に見通せる賢人こそ、

たよるべき相手なのに、どこかつまらなく感じてしまったりは、たしかに。



神聖な場所の修道院でも、チューリップ栽培に関わっていたり、まるで商売人、

17世紀のオランダの風俗が、生き生きと描かれて、富める者も貧しい者も、

ごった返しの様相、ちょっとしたチャンスで、大金持ちになれる時代だったの?

というか、いまの時代と、あまり変わらないかもですね、投機に群がる人たち。


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フェルメールの絵の世界を描きたい、と創られた作品らしく、絵画的な色彩、

特に、やはりブルーの輝きがまぶしく、当時のファッションも堪能できて。

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いろいろの行き違いや、策略やら、失態やらの果てに、それぞれの立場の人たち、

悲しかったり悔しかったり憤ったりはあったけれど、みな、幸福のほのかな光を、

見つけられたような、物語の結びに、ほっと暖かく微笑ましい気持ちに。

失意のどん底から這い上がるにしても、博打で幸せはつかめないんですね。


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シネプラザサントムーンにて1月


チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛 公式サイト


by habits-beignets | 2019-01-15 14:58 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 日日是好日

もう、年の瀬、あっという間に一年がすぎてしまうことに、呆然と、少し焦って、

何もしなかった、何もできなかった、いつも悲しくなるけれど、日々はきっと。

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茶道って、側から眺めてるだけでは、ちょっと面倒くさそうな、礼儀作法の様式美、

そんな印象でもありそうだけれど、一歩その道に足を踏み入れると、世界の奥深さ、

思慮深さに、びっくり、理屈は何も語られなくとも、根拠は何も示されなくとも、

ただ、習ったとおりの所作を、何度も何度も、くり返すうちに、体得できる何かが。

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かたちをなぞることから、身体に、思考に、じわじわ染み込んでくる、想念とか、

そこから派生しての知恵とか、悟りとか、気づきとか、同じものを見たり聞いたり、

しているだけなのに、目の前に存在しているものたちが、突如ちがって映ってくる、

ここちよい驚きは、平凡な毎日をくり返すだけの、これからにも、希望の気配が。

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道に迷っていた20歳の大学生の女の子が、たまたま茶道と出合い、困惑しつつも、

お菓子の美味しさ、お点前の面白さに興味を覚えるうち、いささか中毒気味に、

まるで、茶室という空間に癒しを求めるよう通いつづけるさまは、健気で、

愛らしく、いくらか生真面目で不器用だった彼女の、心持ちも徐々にしなやかに。

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就職が難しかったり、恋でつまずいたり、現実社会で敷かれたレールを意識しては、

自分の存在の頼りなさにしじゅう鬱鬱、誰かと比べては不甲斐なさを思わず嘆いて、

それでも、しがみつく思いでお稽古を続ければ、移りゆく季節を、過ぎゆく年月を、

愛おしむ気持ちが、知らず知らずのうちに、心の奥底から溢れ、湧きあがって。

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いまの社会で暮らしていると、なかなか、時のながれに、想いを寄せる機会って、

ないかもしれない、やるべきこと、やらなければいけないことのおびただしさに、

心を奪われて、目のまえに広がっている空間を、じっと見つめることなど、

思いつかず省いて、美しく大切なものの在り処を、見つけられなくなってしまう。

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美味しいお茶でもてなすこと、こころよさをその場にいる皆で共有すること、

かすかな、湯の音、水の音、を聞き分けて、生まれてきたこの世界を体感すること、

そんな日々を、重ねてゆくことの、うれしさを知って、茶事をいつくしむ彼女の、

おだやかな生きざまが、すがすがしく、たしかにお茶って、そんな魅力。

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厳しいことや難しいことをいっさい言わないで、若い女の子たちを導く先生の、

鷹揚な奥ゆかしさが、茶道の世界観を体現しているかのようで、樹木希林さんが。

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シネプラザサントムーンにて12月


日日是好日 公式サイト


by habits-beignets | 2018-12-31 16:50 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 グッバイ ・ゴダール!

ジャン=リュック・ゴダール、ヌーベルバーグの旗手、ということであまりに有名、

そう、作品はいかにも洗練されて芸術的、というか、いささか妙ちきりんぽかったり、

では、恋人としての彼は、いったいどんな? それが、圧倒されてちょっと切なく。


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ゴダールの二度目の妻、アンヌ・ヴィアゼムスキーの、自伝的小説が原作とのこと、

すでにあまりに有名、ブレイクしてた映画監督ですもの、まだ19才の彼女が、

心酔しきってしまうのも無理なさそう、いちいち詩的っぽい受け答えもオシャレ、

偉大な作家モーリアックを祖父にもつ、哲学科の学生だった彼女には、きっと刺激的。

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でも、まあ、恋愛の悲しさ、始まりの頃は、すべてが美しく輝いて、祝福の気配でも、

慣れ親しんでゆくにしたがって、魅力が難点に、刺激が煩わしさに、教えが侮辱に、

少女から大人への急成長には、彼との関わりが、強く作用していたかもしれないのに、

皮肉だけれど、だからこそ、あれほど尊敬していた恋人が、次第に幼稚なへんくつに。

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知り合った頃からとは、お互いの立場が、くるくる入れ替わるってよくありそう、

無名だった少女が、あっという間にその魅力と知性を開花させ、自分の力で輝いて、

もはや彼なしでも、どこへでも立って歩いていけるように、なってしまえば、

ことあるごとに疑問や不満、嫉妬とか焦燥あるいは絶望とか、たとえ愛のせいでも。

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それにしても、いつもゴダールの隣に寄り添うアンヌの、愛らしさといったら!

彼に守られていることの気分のよさプンプン、で、彼女を持ち歩けるゴダールも、

いかにも誇らしそう、バービー人形さながらの恋人ですもの、ブラウスやセーター、

パリ流行ファッションの、キュートさ、ミニのプリーツからほっそり伸びた脚。

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部屋の調度品なども、どれもオシャレでカッコよく、形も色も美しいんですよね、

ポイントの赤が、ことあるごとに効いていて、ていうか、実はこれ、ゴダール映画に

捧げるための映画、というつくり、監督のミシェル・アザナヴィシウスが、いかに、

映画を愛しているか、監督ゴダールに敬意を抱いているか、が伝わってくる演出が。

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いかにもゴダールのミューズでありそうなセリフ、その視線、笑っちゃうシーンも、

気がきいて、ことあるごとの仲間での議論やら揉め事も、どこか滑稽で微笑ましく、

血気盛んに、革命運動に身を投じる姿も、単にインテリの、自己顕示にも見えて、

そして終盤、もはややけっぱちなのか、孤独に革命に突っ走る巨匠の、陳腐な姿が。

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どんなに地位や名誉のある、おじさまでも、正体は、甘ったれ駄々っ子と同じなのかも、

でも、そこがまた、とんがった知性や魅力に、反映されてしまったりなのかも。

つきあい続けるには、かなり忍耐が必要、それでも、輝けた時間は、尊いだろうけど。

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シネプラザサントムーンにて10月


グッバイ ・ゴダール 公式サイト



by habits-beignets | 2018-11-05 16:58 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 万引き家族

なんともいえないタイトルですよね、いかにもダーティーな世界っぽく。

けれど、そこには、やさしさが、よろこびが、微笑ましさが、確実にあって。


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いかにも無邪気な少年が、でも、その眼光は、異様に鋭く、口はぎゅっと固く結び、

たいせつな任務を、着実に遂行、おまじないめいたルーチンも、まるで神聖な祈り、

家族の命運を、一手に引き受けてでもいるかのような振る舞いは、もはやけなげで、

咎めることすらためらわれて、それ、犯罪だよ、と諭すのは、野暮なようにも。

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だって、怠けて遊んで、誰かを傷つけようとしているわけではないんですもの、

少年の家族は、互いにいたわり、寄り添い、大人はきちんと働いてだっている、

なのに、暮らしてゆくには足りないのだ、生きてゆくのに食べたり、装ったり、

ときには寛いで、健やかな身体と心を保つのに、わずかな賃金ではまかなえない。


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悪いことだっていうのは承知だけれど、でも、それなりに真剣に生きているのに、

たかが杓子定規の善悪論に、どれほどの価値があるっていうの?

盗みは悪いっていうけれど、たとえばその、店に並んでるものって、誰のもの?

自分の子供を、大切にできない親がいる世の中の、何を信じればいいっていうの?

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欲しいもの、というよりも、本当に必要なものだけを、きちんと見極めて、

ときには、人生をかける覚悟で、奪おうとする、彼らの生き方は、むしろ純粋で、

うわべだけを取りつくろった社会の、窪地のような一軒家は、雑然としていても、

とても豊か、すぐ隣にいつも誰かがくっついて、鬱陶しいけど、みな愛しくて。

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それでも、いつまでも家の中だけで生きてゆけるわけもなくて、少年も、少女も、

外の世界の誰かと、関わる機会はやっぱりどうしても、だってまだ、何も知らない、

いろんな人の、いろんな気持ちや、いろんな人生、想像したり、わかってみたくて、

ひろい世界には、もっと自分の味方がいるかも、正しい道が、ほかにあるのかも。

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大人になるまえの、避けて通れない、疑問ばかりの日々、痛くても、悲しくても、

本当のことに、立ち向かってゆきたい抑えられない欲求があって、我慢できなくて、

それまで信じていた世界を、いっそ壊してしまいたくなって、どこか、別の場所で、

自分ひとりの力で、やっていけるか、飛び出してしまいたくなるのかも。


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家族ってたぶん、そんな状況でも、離れても、どこかで強くつながっているものでは、

つながり方は、それぞれだろうけれど、ふと懐かしく、ときにそばに寄り添って、

たとえ世間では、許されなくても、互いの気持ちを思いやる習慣は、何よりも大事で、

法律とか、常識とか、固定観念では、とらえられない、生き物めいた集団なのでは。



貧しくても、余裕がなくても、女の子が可愛くみえるように、みなであれこれ、

微笑ましく、おしゃれ心って、やさしさと通じる、大切なもののような気配。


シネプラザサントムーンにて8月


万引き家族 公式サイト


by habits-beignets | 2018-08-12 19:35 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 ファントム・スレッド


始まってすぐ、胸ときめいてしまう、オートクチュールハウスの朝の光景、

ここで、これから、美しいドレスが、生まれようとしている、淡く白い部屋、

高名なデザイナーの、身支度すら、華麗で高貴な音楽にのって、芸術じみて。

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けれど、かけがえのない一着のドレスのために、つねに腕を振るう仕立て屋は、

暮らしすべてを仕事にささげ、だから、他人をよせつけない気難しい面が、

美しい女性のやさしい言葉より、静寂を欲する頑さは、たしかに、一流職人には、

必要な気質かもしれないけれど、彼に魅せられて近づきたい者には、激しい苦痛が。

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もしや、彼の望みはただ、理想の服を作り上げること、女性を見いだし選ぶのも、

それこそが唯一の基準で、理由で、目的なのでは、偶然出会ったウェイトレスを、

見初めたのも、はにかんだ視線の交差や、愛らしいやりとりゆえとかではなく、

制服姿の彼女のシルエット、立ち姿に、新しい服のデザインを着想したからでは。

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おそらく最初の出会いのときから、デザイナーに心を奪われたウェイトレスが、

期待していた二人の時間とは、すこしずれてしまった最初のデートの出来事が、

今後の二人の関係のむずかしさを、如実にあらわしているようで、純粋な愛って

何なの? 彼女が求めるものと、彼が求めるものの、行き違いを、どうすれば?

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誰かを熱烈に愛したとき、やっぱり自分も愛されたくて、必要とされたくて、

でも、その必要とされたいものって、あくまで自分が望んで与えられるもので、

捧げることに喜びを感じられるものでしかなかったりして、不幸にも、それを

拒絶されてしまえば、耐えがたい悲しみとか苦しみ、無力感しかなかったり。

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自分の愛が迷惑がられている、相手が不快に感じている、と悟ったときの絶望感、

それでも、自分の存在は必要とされていることの矛盾に、やりきれなさは増して、

彼を、自分の愛の世界に引き入れたい、厳格で孤独な彼の世界から抜け出させて、

うわべを飾るドレスの世界から、生身の体の世界に、引きずりこみたくなったり。

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始終ドレスのことに心を傾けて、そんな彼女のひとりよがりの愛情など、鬱陶しいだけ、

心を乱されるのは願い下げだと本心から思っても、いざ、失いそうな危機を接すると、

力ずくでもたぐり寄せたくなってしまう、気持ちや考えどおりに、動けないせつなさ、

自分のスタイルを、静かに守りたい欲求と、雑音をたてられても、すがりたい欲求。

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互いに、激しい反発を抱えながらも、狂おしく、やはり求め合ってしまう二人が、

やがて、見いだそうとする決着点は、悲しかったり恐ろしかったり愚かしかったり、

演じるダニエル・デイ=ルイスの、視線、表情、の、ものすごさ、と相まって、

ジョニー・グリーンウッドの音楽に彩られ、究極の、愛のかたちの、迫力が。

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物語の背景の、クチュールハウスの描写がすてきで、見惚れてしまいます。

レース生地を手仕事で丁寧に縫ってゆく、たくさんのお針子さん。

ファントム・スレッドとは、「東ロンドンのお針子たちが、王族や貴族に長時間衣装を縫い続け、仕事場の外でも見えない糸を縫い続けたという逸話からきている。(映画チラシより)」とのことです。


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ファントム・スレッド 公式サイト


シネプラザサントムーンにて7月


by habits-beignets | 2018-07-24 16:02 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 モリのいる場所


身近に、 すぐ足もとに存在しているものたちに、いちいち気づいて、じっと見て、

語りかけ、寄りそい、何度も、何時間も、何十年もくり返すことの、神々しさ。



ぱっと見、稚拙な作風だけれど、すでに著名な画家となった94歳のじいさんが、

のんびり朝食を終えてから、なんだか妙ちきりんな騒ぎを経ての、静かな夜まで、

とある一日をとおしての、いかに変わり者で、いかにまわりに愛されていたかが、

描かれるのですが、これが、高名な芸術家らしさのない、風体のおかしみが。

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その、目に映るもの気にかかるものの、限りなさったら、とかげ、かまきり、蝶、

蟻、鳥、魚、樹々、葉っぱ、石ころ、水面、それらを、なにひとつ漏らすまい、

どれも等しく、謎にみちて、このうえなく大切で、親密なものたちで、だから、

すべてと細やかにかかわろうとしているうちに、はるか遠くまで道に迷って。

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なんて、それほど広くはない自宅の庭が、もはや、世界の果てまでの冒険のよう、

あたかも、樹々や草がのびのび生い茂ったジャングルめいて、なんと地底まで。

長いあいだ、一歩も外にでていないという伝説も、無理なく信じられるけれど、

高いところから見下ろせば、たとえ小さな庭だとしても、広大な宇宙につながって。

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「好きなものしか書きませんから」の夫人の言葉の、徹底ぶりは、笑いを誘って、

まともに暮らしている者たちは、実際は、戸惑ったり、困ったり、呆気にとられて、

けれど、有名人相手に、あるいは老人相手に、文句もいえず、従ってみるうち、

その心持ちの、純粋さ、素朴さに、引き込まれて、芸術ってきっとそんな潤いが。

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単純な輪郭線と色彩の、虫や、鳥や、獣は、子供でも描けそうに見えるけれど、

あきれるほどの時間を、ただ見つめることだけに費やしたからこその、

迷いのない、大らかでのびのびした、筆致であるのだなあ、と想像できて、

上手とか、下手とか、超越した、清々しさみたいなものが、魅力であるのかも。

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冴えなくて、だらしなくて、頼りない、風貌だけれど、何ものにもこだわらない、

世間一般の価値観など、どこ吹く風の暮らしぶりは、みんな実は、羨ましかったり、

たいせつな庭で生きるものたちが、マンション建設で、どうなることやらと、

夫人はやきもきしているようだけれど、画家本人は、どこか達観の雰囲気が。

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じつは、個人的なことですが、熊谷守一はずっと以前からとても好きで、

まだ、開館まもない豊島区の美術館を訪れて、その愛らしさに感激したことが。

手元に、昭和53年発行の、「アサヒグラフ別冊 美術特集 熊谷守一」が、

あるのだけれど、開いてみたら、映画の場面がけっこう忠実で驚きました。

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若いときの作品は、ふつうにわかりやすく上手なかんじだったんですね。

純粋に、まっすぐ、描きつづけると、絵の構図は単純に、のびのびするのかも。


シネプラザサントムーンにて7月


モリのいる場所 公式サイト




by habits-beignets | 2018-07-04 21:13 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 シェイプ・オブ・ウォーター

陽の光から遠ざかった、静かな、水底のような世界で暮らす、ひとびと、

映像の世界でのみ、そとの社会をかいま見ることができる者たちが、触れあって。

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終始、薄暗く、人工的な灯がたよりな、夜の研究所の世界は、たえずどこか不穏で、

陰謀や猜疑が、いたるところで渦巻いていそうな、東西冷戦時代を象徴させて、

言葉を発せないまま、つましい暮らしの日々をくり返す、主人公の女性が、

ひそやかに、すこしずつ、自分の世界を築きあげてゆくのには、危ない雰囲気が。

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そんな場所で、突如、関わるようになった、異形のものを、心に受け入れたのは、

なにか自分と通じるものを感じたからかもしれないけれど、美しく、可憐な存在を、

見極めるたしかな目を、きっと持っていたからでは? 孤独でいたわしい存在を、

放っておくことが、できなかったからでは? 隣人や同僚を、大切に思うように。

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いかにも大事そうに、紙袋を抱いて家を出る彼女の姿は、まるで、少女のように、

愛らしく、なかにはささやかな、贈りもの? お弁当? 仕草や視線での言葉が、

通じあって、気持ちが通いあって、その喜びが、日ごとにふくれあがって、

冷酷な事情のもとに、水槽につながれている彼なしでは、生きていけなさそうに。

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分厚いガラスを挟んだ、水中と外との、奇妙なロマンスは、けれど、いつまでも、

許されるわけもなく、残酷な終わりの気配がただよって、ひとそれぞれ、

いろいろな思惑、与えられた立場で、強者は弱者を、容赦なくねじ伏せようと、

暴力もいとわない、嘲られ、貶められるのは、やはり多数からはずれた者たち。

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それでも、誰にも奪われたくない、奪わせてはいけない、と彼女が決めたとき、

立ち向かう相手が何者であろうと、恐れず、見境ないほど、まっすぐ突き進んで、

その迷いのなさに、まわりの心ある者たちも、その本性をあぶり出されるように、

自らの気持ちに率直に、行動をおこす、まるで秘密結社ででもあったかのように。

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どれほど、求める気持ちが強くても、愛したい、愛してほしいと願っても、

まったく同じ世界で、生きているわけではない、それぞれが、つながれるのは、

ほんの一瞬に過ぎないのは、いつだって誰だって、そうなのかもしれないけれど、

大切に思っていることを、伝えたい、そのために、自分のすべてを賭けてでも。


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そんな、ピュアな気持ちこそが、閉塞気味の社会を救うことができる、力かも、

異形であることを、むしろ畏れをもって迎えることの、麗しさ、尊さこそが。

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60年代のアメリカのファッションや、テレビ、映画、カメラ、が映す映像が、

暗がりで繰り広げられる、大人のファンタジー世界を、妖艶にうつくしく。


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シネプラザサントムーンにて3月

シェイプ・オブ・ウォーター 公式サイト


by habits-beignets | 2018-03-28 00:47 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 ジャコメッティ 最後の肖像

“たった1日の約束が、来る日も来る日も完成しないポートレイト”とは恐ろしい、

それも、家から遠く離れた外国での足止め、遠のく帰国、でも突き放して帰れない。

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パリまで、高名な彫刻家の個展を訪れた作家が、その彫刻家ジャコメッティに、

肖像画のモデルになってほしいと、頼まれてからの、ささやかな紆余曲折の騒動が、

軽やかに、いくぶん滑稽に、描かれるのですけれど、芸術家の苦悩の底知れなさよ、

何がそんなに不満なのか。何がそんなに腹立たしいのか、戸惑いつつ笑ってしまう。

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頼んでモデルになってもらったのに、言いたい放題失礼千万だったりなのは、

芸術家として成功をおさめ、巨匠と認められた存在ゆえの、横暴さでもなさそうで、

どこか憎めない率直さ、純真さは、おそらく生来のもの、他人を罵倒もするけれど、

なにより自分自身をなさけなく感じてる気配は、どこか愛らしく、捨て置けなくて。

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素晴らしい作品が、もうすぐやっと、完成しそうなのに、容赦なくかき消す、

その繰り返しの合間に、妻や愛人やちんぴらたちとのいざこざ、そして情緒不安定、

すぐに描き終わるつもりで、引き受けたモデルだったのに、こんなはずでは、

でも、帰国するとは言い出せない人のよさは、巨匠への遠慮ばかりでもないような。

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この成りゆきの、終わり方を見届けたい、とか、その日常の魅力にひきずられて、

みたいな、好奇心に抗えないところもあったのでは、困っている自分をも楽しんで、

さいわい、その困惑を理解して、愚痴を聞いてくれるひとも、存在してくれたし、

悪意をぶつけられているわけではないですものね、求められているのは誇らしいし。

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傍若無人のようでも、気まぐれのようでも、芸術に対しては、安易に妥協しない、

自分の才能を過信しない、そんな真摯な姿勢には、寄り添ってあげたくもなるし、

世間一般の価値観とは、一線を画す、強力な個性には、新鮮な驚きがいつもあって、

だから、帰りたい気持ちを、なんとなく、先延ばしに、狼狽えながらもしてしまい。

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そうはいっても、いつまでもというわけにもいかず、というか、永遠に帰れない、

そんな不安がふくらむばかりで、ではどうすれば、の逡巡の末の、頭脳プレー、

強引に帰るということを、避けるために、それほどの注意力と戦略で応じるとは、

やさしいなあ、と嬉しくて、芸術を、芸術家を、愛してるかんじが、微笑ましくて。

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ジャコメッティの作品て、一見してわかるなんともいえない魅力が。

アトリエにはところ狭しと、あちこち雑然と、倉庫の備品のように置かれて。

芸術家の隠れ家を覗いているような、楽しさが。


シネプラザサントムーンにて2月


ジャコメッティ 最後の肖像


by habits-beignets | 2018-02-25 19:36 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 ゴッホ 最期の手紙

画家ゴッホの、色あざやかで情熱みなぎるタッチが、そのまま生命を吹き込まれ、

生き生きとドラマをつむいでゆく、彼が描いた世界が、彼の人生をあぶり出して。

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ハッとうれしい驚きから、物語に入り込む快感は、見たことのある名画の数々が、

動きだし、語りかけ、みずから作家の謎を探るための、案内をしてくれるから、

大胆な筆致そのままの、星がまたたく夜空は、おとぎ話の雰囲気ではあるけれど、

すでに亡くなった画家に、思いを寄せる、それぞれの登場人物は、確かに存在して。


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生前ゴッホが送ったけれど、届かなかった手紙を、彼と親交のあった郵便配達人が、

宛先である弟のテオに、なんとか届けるように、息子のアルマンに託すところから、

ゴッホの人生、ひととなりを探る、ささやかな冒険が繰り広げられるのですが、

彼と関わったひとたちが、それぞれ、まったく違う印象のできごとを、暴露して。


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疫病神だと眉をひそめる者、静かな紳士だったと微笑む者、天才だったと讃える者、

異常者だったのか、まともだったのか、行き詰まっていたのか、幸福だったのか、

孤独だったのか、満ち足りていたのか、自殺だったのか、他殺だったのか、

同じ事件でも、見ていた者の視点によって、これほど、解釈が異なるものなのか。


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もはや当人に会ってたしかめる術もなく、聞いた話のつぎはぎを、じっと見つめ、

あれこれ入れ替え、並び替えるような思考の作業で、画家の真実の姿に迫ろうと、

あたかも、画家が描いたかのような人物、世界そのものが、うごめくうちに、

彼が本当は何を見て、何を描こうとしていたのかは、わからなくても感じることが。

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美しいんですよね、ちょっと奇妙なかんじも面白くて、アニメーション、

静止画として今まで観ていたものが、会話したり、悩んだり、暴れたり、

筆づかいのままの、灯りのゆらめきの不思議さ、よくもこんな作り込みを、

62450枚の動く油絵!の威力、情熱の結集のものすごさが、ともかく


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思いつきはともかく、実際に作成してしまう執念はちょっと、常規を逸して、

実在の俳優が演技したものを、コマごとに油絵に変換、またそれをつなげて、

580枚描いても、ほんの1分弱、の過酷さは、想像を絶して。


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それにしても、ゴッホが画家として活動していた年月の短さ。

そして描いた絵の数と、生前売れた絵の数の、驚きの数字。

その驚異的な才能を、崇めるよう、いたわるよう、いつくしむよう、

彼の届かなかった手紙を、全力で読み解こうとでもしたかのような、油絵たち。


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ひとは、生きているうちには、自分の成した功績を、知ることができないのかも。

自分の手を離れたあとで、それは、正当に評価される運命だったりするのかも。


シネプラザサントムーンにて1月


ゴッホ 最期の手紙 公式サイト


by habits-beignets | 2018-01-16 14:45 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 オン・ザ・ミルキー・ロード

ガチョウの群れとか、のんきそうなロバとか、悠然と宙を舞うタカとか、

外国のおとぎ話の感じそのままなんですが、そこにはじつは緊迫した銃撃戦が。



真っ青な空に、緑かがやく森、草原、うつくしいヨーロッパの景色を舞台に、

ロバにまたがってミルクを運ぶ、おじさんが泰然と登場、そこが戦場だなんて、

信じられない雰囲気なんですけれど、戦争がいまここにある、というのは、

案外そんな、アンバランスな空気が、さりげなく無慈悲に同居していることなのかも。


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やかましい大きな古時計に、ひとが噛まれて大騒ぎしたり、難民キャンプから、

美女を戦地にいる兄の妻にと連れてきたり、休戦で浮かれたパーティで踊り狂い、

恋の火花が散り、いきなり銃を撃ちまくって、結婚式の宴には、陽気に集い。

ところが絶望的に不穏な空気が、黒ずくめの男たちとともに空から降ってきて。

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そんなに深刻な話ではないと思って見ていたのに、容赦なく、あたり一面黒焦げに、

びっくりの展開が繰り広げられて、休戦じゃなかったっけ? のどかさが一変、

まるまる太った大蛇が、ミルク運びのおじさんへの恩返しなのか、神のたすけか、

生きるか死ぬかの追いかけっこが、ひろびろの大地を果てしなく、どこまでも。


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戦争とか殺戮とかってなんなんでしょうね、彼らの右往左往を見守っているうち、

傍観者と当事者の、背負っている世界の落差の大きさが、もはや滑稽なほど。

ひとびとが殺しあっても、ガチョウはがあがあ、タカは悠々、ロバはわけわからず、

釣り人や羊飼いは、きょうを生き延びる糧だけのために、いたいけな生命と向き合って、


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なんのために誰を追いかけているのか、なんのために殺めなければならないのか、

相手の名前も来し方もきっと知らないのに、ためらいなく傷つけられる、異常さ、

はたから眺めてしまえば、ただ嘆かわしく愚かしいだけなのに、おとぎ話でさえ、

ほんのちょっとの行き違いで、スリルサスペンスホラーと同居してしまう恐ろしさ。


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へんてこリアルな、とびだす絵本さながらの冒険ムービーであったりもして、

メルヘンちっくな戦地のおはなし、それでも、ラストの、少しずつ少しずつでも、

悲劇を埋めて、のどかでやさしい日々にたどりつこうと歩みつづける姿がせつなく。


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エミール・クストリッツァ監督の作品は、セルビア出身だからこその、戦争に対するリアルな

感性なんだろうなと思わせられます。


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シネプラザサントムーンにて、11月


オン・ザ・ミルキー・ロード 公式サイト


by habits-beignets | 2017-11-28 00:34 | シネマのこと | Comments(0)

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