カテゴリ:シネマのこと( 96 )

『マッピー』用ボーダー

映画 万引き家族

なんともいえないタイトルですよね、いかにもダーティーな世界っぽく。

けれど、そこには、やさしさが、よろこびが、微笑ましさが、確実にあって。


b0190930_19190585.jpg


いかにも無邪気な少年が、でも、その眼光は、異様に鋭く、口はぎゅっと固く結び、

たいせつな任務を、着実に遂行、おまじないめいたルーチンも、まるで神聖な祈り、

家族の命運を、一手に引き受けてでもいるかのような振る舞いは、もはやけなげで、

咎めることすらためらわれて、それ、犯罪だよ、と諭すのは、野暮なようにも。

b0190930_19191226.jpg


だって、怠けて遊んで、誰かを傷つけようとしているわけではないんですもの、

少年の家族は、互いにいたわり、寄り添い、大人はきちんと働いてだっている、

なのに、暮らしてゆくには足りないのだ、生きてゆくのに食べたり、装ったり、

ときには寛いで、健やかな身体と心を保つのに、わずかな賃金ではまかなえない。


b0190930_19191539.jpg


悪いことだっていうのは承知だけれど、でも、それなりに真剣に生きているのに、

たかが杓子定規の善悪論に、どれほどの価値があるっていうの?

盗みは悪いっていうけれど、たとえばその、店に並んでるものって、誰のもの?

自分の子供を、大切にできない親がいる世の中の、何を信じればいいっていうの?

b0190930_19191840.jpg


欲しいもの、というよりも、本当に必要なものだけを、きちんと見極めて、

ときには、人生をかける覚悟で、奪おうとする、彼らの生き方は、むしろ純粋で、

うわべだけを取りつくろった社会の、窪地のような一軒家は、雑然としていても、

とても豊か、すぐ隣にいつも誰かがくっついて、鬱陶しいけど、みな愛しくて。

b0190930_19192238.jpg


それでも、いつまでも家の中だけで生きてゆけるわけもなくて、少年も、少女も、

外の世界の誰かと、関わる機会はやっぱりどうしても、だってまだ、何も知らない、

いろんな人の、いろんな気持ちや、いろんな人生、想像したり、わかってみたくて、

ひろい世界には、もっと自分の味方がいるかも、正しい道が、ほかにあるのかも。

b0190930_19192676.jpg


大人になるまえの、避けて通れない、疑問ばかりの日々、痛くても、悲しくても、

本当のことに、立ち向かってゆきたい抑えられない欲求があって、我慢できなくて、

それまで信じていた世界を、いっそ壊してしまいたくなって、どこか、別の場所で、

自分ひとりの力で、やっていけるか、飛び出してしまいたくなるのかも。


b0190930_19192951.jpg


家族ってたぶん、そんな状況でも、離れても、どこかで強くつながっているものでは、

つながり方は、それぞれだろうけれど、ふと懐かしく、ときにそばに寄り添って、

たとえ世間では、許されなくても、互いの気持ちを思いやる習慣は、何よりも大事で、

法律とか、常識とか、固定観念では、とらえられない、生き物めいた集団なのでは。



貧しくても、余裕がなくても、女の子が可愛くみえるように、みなであれこれ、

微笑ましく、おしゃれ心って、やさしさと通じる、大切なもののような気配。


シネプラザサントムーンにて8月


万引き家族 公式サイト


[PR]

by habits-beignets | 2018-08-12 19:35 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 ファントム・スレッド


始まってすぐ、胸ときめいてしまう、オートクチュールハウスの朝の光景、

ここで、これから、美しいドレスが、生まれようとしている、淡く白い部屋、

高名なデザイナーの、身支度すら、華麗で高貴な音楽にのって、芸術じみて。

b0190930_15492735.jpg

けれど、かけがえのない一着のドレスのために、つねに腕を振るう仕立て屋は、

暮らしすべてを仕事にささげ、だから、他人をよせつけない気難しい面が、

美しい女性のやさしい言葉より、静寂を欲する頑さは、たしかに、一流職人には、

必要な気質かもしれないけれど、彼に魅せられて近づきたい者には、激しい苦痛が。

b0190930_15500793.jpg


もしや、彼の望みはただ、理想の服を作り上げること、女性を見いだし選ぶのも、

それこそが唯一の基準で、理由で、目的なのでは、偶然出会ったウェイトレスを、

見初めたのも、はにかんだ視線の交差や、愛らしいやりとりゆえとかではなく、

制服姿の彼女のシルエット、立ち姿に、新しい服のデザインを着想したからでは。

b0190930_15504725.jpg


おそらく最初の出会いのときから、デザイナーに心を奪われたウェイトレスが、

期待していた二人の時間とは、すこしずれてしまった最初のデートの出来事が、

今後の二人の関係のむずかしさを、如実にあらわしているようで、純粋な愛って

何なの? 彼女が求めるものと、彼が求めるものの、行き違いを、どうすれば?

b0190930_15511371.jpg


誰かを熱烈に愛したとき、やっぱり自分も愛されたくて、必要とされたくて、

でも、その必要とされたいものって、あくまで自分が望んで与えられるもので、

捧げることに喜びを感じられるものでしかなかったりして、不幸にも、それを

拒絶されてしまえば、耐えがたい悲しみとか苦しみ、無力感しかなかったり。

b0190930_15514115.jpg


自分の愛が迷惑がられている、相手が不快に感じている、と悟ったときの絶望感、

それでも、自分の存在は必要とされていることの矛盾に、やりきれなさは増して、

彼を、自分の愛の世界に引き入れたい、厳格で孤独な彼の世界から抜け出させて、

うわべを飾るドレスの世界から、生身の体の世界に、引きずりこみたくなったり。

b0190930_15522822.jpg


始終ドレスのことに心を傾けて、そんな彼女のひとりよがりの愛情など、鬱陶しいだけ、

心を乱されるのは願い下げだと本心から思っても、いざ、失いそうな危機を接すると、

力ずくでもたぐり寄せたくなってしまう、気持ちや考えどおりに、動けないせつなさ、

自分のスタイルを、静かに守りたい欲求と、雑音をたてられても、すがりたい欲求。

b0190930_15525695.jpg

互いに、激しい反発を抱えながらも、狂おしく、やはり求め合ってしまう二人が、

やがて、見いだそうとする決着点は、悲しかったり恐ろしかったり愚かしかったり、

演じるダニエル・デイ=ルイスの、視線、表情、の、ものすごさ、と相まって、

ジョニー・グリーンウッドの音楽に彩られ、究極の、愛のかたちの、迫力が。

b0190930_15531378.jpg


物語の背景の、クチュールハウスの描写がすてきで、見惚れてしまいます。

レース生地を手仕事で丁寧に縫ってゆく、たくさんのお針子さん。

ファントム・スレッドとは、「東ロンドンのお針子たちが、王族や貴族に長時間衣装を縫い続け、仕事場の外でも見えない糸を縫い続けたという逸話からきている。(映画チラシより)」とのことです。


b0190930_15533762.jpg


ファントム・スレッド 公式サイト


シネプラザサントムーンにて7月


[PR]

by habits-beignets | 2018-07-24 16:02 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 モリのいる場所


身近に、 すぐ足もとに存在しているものたちに、いちいち気づいて、じっと見て、

語りかけ、寄りそい、何度も、何時間も、何十年もくり返すことの、神々しさ。



ぱっと見、稚拙な作風だけれど、すでに著名な画家となった94歳のじいさんが、

のんびり朝食を終えてから、なんだか妙ちきりんな騒ぎを経ての、静かな夜まで、

とある一日をとおしての、いかに変わり者で、いかにまわりに愛されていたかが、

描かれるのですが、これが、高名な芸術家らしさのない、風体のおかしみが。

b0190930_21002260.jpg


その、目に映るもの気にかかるものの、限りなさったら、とかげ、かまきり、蝶、

蟻、鳥、魚、樹々、葉っぱ、石ころ、水面、それらを、なにひとつ漏らすまい、

どれも等しく、謎にみちて、このうえなく大切で、親密なものたちで、だから、

すべてと細やかにかかわろうとしているうちに、はるか遠くまで道に迷って。

b0190930_21013628.jpg


なんて、それほど広くはない自宅の庭が、もはや、世界の果てまでの冒険のよう、

あたかも、樹々や草がのびのび生い茂ったジャングルめいて、なんと地底まで。

長いあいだ、一歩も外にでていないという伝説も、無理なく信じられるけれど、

高いところから見下ろせば、たとえ小さな庭だとしても、広大な宇宙につながって。

b0190930_21015935.jpg


「好きなものしか書きませんから」の夫人の言葉の、徹底ぶりは、笑いを誘って、

まともに暮らしている者たちは、実際は、戸惑ったり、困ったり、呆気にとられて、

けれど、有名人相手に、あるいは老人相手に、文句もいえず、従ってみるうち、

その心持ちの、純粋さ、素朴さに、引き込まれて、芸術ってきっとそんな潤いが。

b0190930_21025913.jpg

単純な輪郭線と色彩の、虫や、鳥や、獣は、子供でも描けそうに見えるけれど、

あきれるほどの時間を、ただ見つめることだけに費やしたからこその、

迷いのない、大らかでのびのびした、筆致であるのだなあ、と想像できて、

上手とか、下手とか、超越した、清々しさみたいなものが、魅力であるのかも。

b0190930_21024968.jpg


冴えなくて、だらしなくて、頼りない、風貌だけれど、何ものにもこだわらない、

世間一般の価値観など、どこ吹く風の暮らしぶりは、みんな実は、羨ましかったり、

たいせつな庭で生きるものたちが、マンション建設で、どうなることやらと、

夫人はやきもきしているようだけれど、画家本人は、どこか達観の雰囲気が。

b0190930_21022148.jpg


じつは、個人的なことですが、熊谷守一はずっと以前からとても好きで、

まだ、開館まもない豊島区の美術館を訪れて、その愛らしさに感激したことが。

手元に、昭和53年発行の、「アサヒグラフ別冊 美術特集 熊谷守一」が、

あるのだけれど、開いてみたら、映画の場面がけっこう忠実で驚きました。

b0190930_21025330.jpg


若いときの作品は、ふつうにわかりやすく上手なかんじだったんですね。

純粋に、まっすぐ、描きつづけると、絵の構図は単純に、のびのびするのかも。


シネプラザサントムーンにて7月


モリのいる場所 公式サイト




[PR]

by habits-beignets | 2018-07-04 21:13 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 シェイプ・オブ・ウォーター

陽の光から遠ざかった、静かな、水底のような世界で暮らす、ひとびと、

映像の世界でのみ、そとの社会をかいま見ることができる者たちが、触れあって。

b0190930_00360258.jpg


終始、薄暗く、人工的な灯がたよりな、夜の研究所の世界は、たえずどこか不穏で、

陰謀や猜疑が、いたるところで渦巻いていそうな、東西冷戦時代を象徴させて、

言葉を発せないまま、つましい暮らしの日々をくり返す、主人公の女性が、

ひそやかに、すこしずつ、自分の世界を築きあげてゆくのには、危ない雰囲気が。

b0190930_00361768.jpg


そんな場所で、突如、関わるようになった、異形のものを、心に受け入れたのは、

なにか自分と通じるものを感じたからかもしれないけれど、美しく、可憐な存在を、

見極めるたしかな目を、きっと持っていたからでは? 孤独でいたわしい存在を、

放っておくことが、できなかったからでは? 隣人や同僚を、大切に思うように。

b0190930_00362089.jpg


いかにも大事そうに、紙袋を抱いて家を出る彼女の姿は、まるで、少女のように、

愛らしく、なかにはささやかな、贈りもの? お弁当? 仕草や視線での言葉が、

通じあって、気持ちが通いあって、その喜びが、日ごとにふくれあがって、

冷酷な事情のもとに、水槽につながれている彼なしでは、生きていけなさそうに。

b0190930_00362463.jpg


分厚いガラスを挟んだ、水中と外との、奇妙なロマンスは、けれど、いつまでも、

許されるわけもなく、残酷な終わりの気配がただよって、ひとそれぞれ、

いろいろな思惑、与えられた立場で、強者は弱者を、容赦なくねじ伏せようと、

暴力もいとわない、嘲られ、貶められるのは、やはり多数からはずれた者たち。

b0190930_00362754.jpg


それでも、誰にも奪われたくない、奪わせてはいけない、と彼女が決めたとき、

立ち向かう相手が何者であろうと、恐れず、見境ないほど、まっすぐ突き進んで、

その迷いのなさに、まわりの心ある者たちも、その本性をあぶり出されるように、

自らの気持ちに率直に、行動をおこす、まるで秘密結社ででもあったかのように。

b0190930_00363227.jpg


どれほど、求める気持ちが強くても、愛したい、愛してほしいと願っても、

まったく同じ世界で、生きているわけではない、それぞれが、つながれるのは、

ほんの一瞬に過ぎないのは、いつだって誰だって、そうなのかもしれないけれど、

大切に思っていることを、伝えたい、そのために、自分のすべてを賭けてでも。


b0190930_00363512.jpg


そんな、ピュアな気持ちこそが、閉塞気味の社会を救うことができる、力かも、

異形であることを、むしろ畏れをもって迎えることの、麗しさ、尊さこそが。

b0190930_00363863.jpg


60年代のアメリカのファッションや、テレビ、映画、カメラ、が映す映像が、

暗がりで繰り広げられる、大人のファンタジー世界を、妖艶にうつくしく。


b0190930_00364186.jpg



シネプラザサントムーンにて3月

シェイプ・オブ・ウォーター 公式サイト


[PR]

by habits-beignets | 2018-03-28 00:47 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 ジャコメッティ 最後の肖像

“たった1日の約束が、来る日も来る日も完成しないポートレイト”とは恐ろしい、

それも、家から遠く離れた外国での足止め、遠のく帰国、でも突き放して帰れない。

b0190930_19250850.jpg


パリまで、高名な彫刻家の個展を訪れた作家が、その彫刻家ジャコメッティに、

肖像画のモデルになってほしいと、頼まれてからの、ささやかな紆余曲折の騒動が、

軽やかに、いくぶん滑稽に、描かれるのですけれど、芸術家の苦悩の底知れなさよ、

何がそんなに不満なのか。何がそんなに腹立たしいのか、戸惑いつつ笑ってしまう。

b0190930_19270016.jpg


頼んでモデルになってもらったのに、言いたい放題失礼千万だったりなのは、

芸術家として成功をおさめ、巨匠と認められた存在ゆえの、横暴さでもなさそうで、

どこか憎めない率直さ、純真さは、おそらく生来のもの、他人を罵倒もするけれど、

なにより自分自身をなさけなく感じてる気配は、どこか愛らしく、捨て置けなくて。

b0190930_19270429.jpg


素晴らしい作品が、もうすぐやっと、完成しそうなのに、容赦なくかき消す、

その繰り返しの合間に、妻や愛人やちんぴらたちとのいざこざ、そして情緒不安定、

すぐに描き終わるつもりで、引き受けたモデルだったのに、こんなはずでは、

でも、帰国するとは言い出せない人のよさは、巨匠への遠慮ばかりでもないような。

b0190930_19270881.jpg

この成りゆきの、終わり方を見届けたい、とか、その日常の魅力にひきずられて、

みたいな、好奇心に抗えないところもあったのでは、困っている自分をも楽しんで、

さいわい、その困惑を理解して、愚痴を聞いてくれるひとも、存在してくれたし、

悪意をぶつけられているわけではないですものね、求められているのは誇らしいし。

b0190930_19271385.jpg


傍若無人のようでも、気まぐれのようでも、芸術に対しては、安易に妥協しない、

自分の才能を過信しない、そんな真摯な姿勢には、寄り添ってあげたくもなるし、

世間一般の価値観とは、一線を画す、強力な個性には、新鮮な驚きがいつもあって、

だから、帰りたい気持ちを、なんとなく、先延ばしに、狼狽えながらもしてしまい。

b0190930_19271761.jpg


そうはいっても、いつまでもというわけにもいかず、というか、永遠に帰れない、

そんな不安がふくらむばかりで、ではどうすれば、の逡巡の末の、頭脳プレー、

強引に帰るということを、避けるために、それほどの注意力と戦略で応じるとは、

やさしいなあ、と嬉しくて、芸術を、芸術家を、愛してるかんじが、微笑ましくて。

b0190930_19272031.jpg


ジャコメッティの作品て、一見してわかるなんともいえない魅力が。

アトリエにはところ狭しと、あちこち雑然と、倉庫の備品のように置かれて。

芸術家の隠れ家を覗いているような、楽しさが。


シネプラザサントムーンにて2月


ジャコメッティ 最後の肖像


[PR]

by habits-beignets | 2018-02-25 19:36 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 ゴッホ 最期の手紙

画家ゴッホの、色あざやかで情熱みなぎるタッチが、そのまま生命を吹き込まれ、

生き生きとドラマをつむいでゆく、彼が描いた世界が、彼の人生をあぶり出して。

b0190930_14324309.jpg


ハッとうれしい驚きから、物語に入り込む快感は、見たことのある名画の数々が、

動きだし、語りかけ、みずから作家の謎を探るための、案内をしてくれるから、

大胆な筆致そのままの、星がまたたく夜空は、おとぎ話の雰囲気ではあるけれど、

すでに亡くなった画家に、思いを寄せる、それぞれの登場人物は、確かに存在して。


b0190930_14333847.jpg


生前ゴッホが送ったけれど、届かなかった手紙を、彼と親交のあった郵便配達人が、

宛先である弟のテオに、なんとか届けるように、息子のアルマンに託すところから、

ゴッホの人生、ひととなりを探る、ささやかな冒険が繰り広げられるのですが、

彼と関わったひとたちが、それぞれ、まったく違う印象のできごとを、暴露して。


b0190930_14334333.jpg


疫病神だと眉をひそめる者、静かな紳士だったと微笑む者、天才だったと讃える者、

異常者だったのか、まともだったのか、行き詰まっていたのか、幸福だったのか、

孤独だったのか、満ち足りていたのか、自殺だったのか、他殺だったのか、

同じ事件でも、見ていた者の視点によって、これほど、解釈が異なるものなのか。


b0190930_14334636.jpg


もはや当人に会ってたしかめる術もなく、聞いた話のつぎはぎを、じっと見つめ、

あれこれ入れ替え、並び替えるような思考の作業で、画家の真実の姿に迫ろうと、

あたかも、画家が描いたかのような人物、世界そのものが、うごめくうちに、

彼が本当は何を見て、何を描こうとしていたのかは、わからなくても感じることが。

b0190930_14334855.jpg


美しいんですよね、ちょっと奇妙なかんじも面白くて、アニメーション、

静止画として今まで観ていたものが、会話したり、悩んだり、暴れたり、

筆づかいのままの、灯りのゆらめきの不思議さ、よくもこんな作り込みを、

62450枚の動く油絵!の威力、情熱の結集のものすごさが、ともかく


b0190930_14335133.jpg


思いつきはともかく、実際に作成してしまう執念はちょっと、常規を逸して、

実在の俳優が演技したものを、コマごとに油絵に変換、またそれをつなげて、

580枚描いても、ほんの1分弱、の過酷さは、想像を絶して。


b0190930_14335601.jpg


それにしても、ゴッホが画家として活動していた年月の短さ。

そして描いた絵の数と、生前売れた絵の数の、驚きの数字。

その驚異的な才能を、崇めるよう、いたわるよう、いつくしむよう、

彼の届かなかった手紙を、全力で読み解こうとでもしたかのような、油絵たち。


b0190930_14335990.jpg


ひとは、生きているうちには、自分の成した功績を、知ることができないのかも。

自分の手を離れたあとで、それは、正当に評価される運命だったりするのかも。


シネプラザサントムーンにて1月


ゴッホ 最期の手紙 公式サイト


[PR]

by habits-beignets | 2018-01-16 14:45 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 オン・ザ・ミルキー・ロード

ガチョウの群れとか、のんきそうなロバとか、悠然と宙を舞うタカとか、

外国のおとぎ話の感じそのままなんですが、そこにはじつは緊迫した銃撃戦が。



真っ青な空に、緑かがやく森、草原、うつくしいヨーロッパの景色を舞台に、

ロバにまたがってミルクを運ぶ、おじさんが泰然と登場、そこが戦場だなんて、

信じられない雰囲気なんですけれど、戦争がいまここにある、というのは、

案外そんな、アンバランスな空気が、さりげなく無慈悲に同居していることなのかも。


b0190930_00153971.jpg


やかましい大きな古時計に、ひとが噛まれて大騒ぎしたり、難民キャンプから、

美女を戦地にいる兄の妻にと連れてきたり、休戦で浮かれたパーティで踊り狂い、

恋の火花が散り、いきなり銃を撃ちまくって、結婚式の宴には、陽気に集い。

ところが絶望的に不穏な空気が、黒ずくめの男たちとともに空から降ってきて。

b0190930_00163050.jpg


そんなに深刻な話ではないと思って見ていたのに、容赦なく、あたり一面黒焦げに、

びっくりの展開が繰り広げられて、休戦じゃなかったっけ? のどかさが一変、

まるまる太った大蛇が、ミルク運びのおじさんへの恩返しなのか、神のたすけか、

生きるか死ぬかの追いかけっこが、ひろびろの大地を果てしなく、どこまでも。


b0190930_00170325.jpg


戦争とか殺戮とかってなんなんでしょうね、彼らの右往左往を見守っているうち、

傍観者と当事者の、背負っている世界の落差の大きさが、もはや滑稽なほど。

ひとびとが殺しあっても、ガチョウはがあがあ、タカは悠々、ロバはわけわからず、

釣り人や羊飼いは、きょうを生き延びる糧だけのために、いたいけな生命と向き合って、


b0190930_00173862.jpg


なんのために誰を追いかけているのか、なんのために殺めなければならないのか、

相手の名前も来し方もきっと知らないのに、ためらいなく傷つけられる、異常さ、

はたから眺めてしまえば、ただ嘆かわしく愚かしいだけなのに、おとぎ話でさえ、

ほんのちょっとの行き違いで、スリルサスペンスホラーと同居してしまう恐ろしさ。


b0190930_00180261.jpg


へんてこリアルな、とびだす絵本さながらの冒険ムービーであったりもして、

メルヘンちっくな戦地のおはなし、それでも、ラストの、少しずつ少しずつでも、

悲劇を埋めて、のどかでやさしい日々にたどりつこうと歩みつづける姿がせつなく。


b0190930_00183837.jpg


エミール・クストリッツァ監督の作品は、セルビア出身だからこその、戦争に対するリアルな

感性なんだろうなと思わせられます。


b0190930_00190058.jpg


シネプラザサントムーンにて、11月


オン・ザ・ミルキー・ロード 公式サイト


[PR]

by habits-beignets | 2017-11-28 00:34 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 ローマ法王になる日まで

神々しいですよね、あらせられるお姿、ローマ法王、すべて超越した天上のひと、

の印象ですけれど、混乱きわまる南米で、苦悩に追われる青年であったなんて。

b0190930_00414419.jpg


原題「フランシスコと呼んで」の、現ローマ教皇フランシスコが、神学を志す

ところから、映画は語ってくれるのですが、なんとなく不穏な気配は感じるものの、

これほどの暴力や殺戮が行われようとは、だって陽気で楽しそうに和気あいあいの

雰囲気は、まさにラテンアメリカ、音楽とサッカーで、熱くなったりはしても。

b0190930_00425452.jpg


けれど、あれよあれよの間に、悪夢のような過酷な状況に、アルゼンチン、

軍事政権すさまじかったのですね、神が後ろ盾の教会でさえ、その圧力の前に、

なす術のない受難を余儀なくされて、生けるもの、誰をも平等に救いたくても、

それが危険と隣り合わせ、信仰をつらぬこうとすれば、奪われる思考や生命。

b0190930_00430958.jpg


神父であっても、サッカー好きの純朴な一青年、親しい友人、同僚を気遣い、

彼らが苦しみ喘ぎ、あるいはなぜか、いなくなる、その恐怖と絶望に身を裂かれ、

なのに、何もできない無力感は、想像を絶する悲しみだったのでは。

守りたい人を、守れない、なにが正しいのか、わからないまま、信仰だけを。

b0190930_00434079.jpg


どうにか生き延びて留学した先で、ひとりの信者として祈る姿は、無垢で、

よわよわしかったけれど、すがる気持ちで手に取った、絵の中の聖母の仕草に、

かすかな希望を見いだすことができたとき、信仰心がもたらす強い力を、

きっと確信できたような、この世のわけのわからない惨禍も、ほどけるときが。

b0190930_00434719.jpg


帰国してからの、つましく貧しいひとびとと手をたずさえての、暮らしぶりは、

迷いなく、毅然とみえて、難しい説教より、聖母マリアに寄り添うことで、

困難に立ち向かうよう導く姿は、やさしくて、堂々たる風格。

軍政はおわっても、富める者と貧しい者の対立で。街は更なる混乱だけれど。

b0190930_00435386.jpg


今度は利権政治との闘いでの、交渉の場で、あなたにだって上司がいるでしょ、

と責められての答えは、揺るぎない自信で裏打ちされ、やむない激しい抗争で、

彼がとった行動は、信仰心への強い信頼が感じられ、誰もが何かを信じて、

慕って、愛されたくて、その前では、兜を脱いで、祈りに身をささげる真実が。

b0190930_00435971.jpg


法王とか、バチカンとか、厳粛で荘厳な世界というイメージだったのだけれど、

現実には、貧しかったり汚れてたりの社会とも、密接であったりするのですね、

救いとはなにか、平安とはなにか、と絶えず探ってきた物語が、集結する、

それが、現世での、神とつながる場所であったりするのかも、と思ったり。

b0190930_00440461.jpg


音楽、よいですね、ピアソラを彷彿とさせる、アルゼンチンの空気感が。


シネプラザサントムーンにて9月


ローマ法王になる日まで 公式サイト


[PR]

by habits-beignets | 2017-09-20 00:58 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 人生フルーツ

想像を絶していました、期待していたものの、今時の、自然とともに暮らす、

シニアの豊かなスローライフ、かと思っていたら、そんなぬるいものではなくて。

b0190930_23485641.jpg


90歳と87歳の夫婦、庭はたくさんの果樹や野菜畑でいっぱいで、静かに、

ゆっくりとだけれど、一日中、大忙し、二人きりの暮らしでも、ときどき、

大声で呼ばないと、行方不明、互いの呼び名さえ、歳月こえて愛らしくて、

食卓の、夫の食事と、妻の食事を見比べれば、自然な思いやりの形がみえて。


b0190930_23514545.jpg


けれど、このほのぼのと充実して流れる時間の影に、裏打ちされた彼らの覚悟、

夫は、戦後の焼け野原で、人々が幸福になれる住まい、夢の公団住宅の造成に、

情熱を傾けた建築家だったけれど、その思惑は、高度経済成長の波にのまれて、

どうやら挫折、でも強い反発は見せないで、諦めない気持ちでか、土地を買い。

b0190930_23524937.jpg


えっ、て、すこし意外なお宅の場所でした、すっかりもっと、山奥のお話かと、

その土地を選んだ誠実さ、自分たちの土地だからこそ、自分たちの思いのまま、

自分たちの流儀を貫いて、人知れず静かに闘う、ってこういうことなのかも、

誰か何かを攻撃することに興味なし、信念があるなら、ひそかに自分たちだけで。


b0190930_23533550.jpg


雑木林に囲まれ、野菜をそだて、それらを慈しむよう、あちこち小さな木札、

名前やコメント、まるで、みんな寄り添って、生きてるよう、家と庭すべてが、

夫婦とともに、陽をうけて、風にそよいで、季節のうつろいを、それぞれ、

肌で感じて、自らの役回りをまっとうして、偉大な建築家たちの名言そのまま。


b0190930_23534438.jpg


奥さん英子さんの、家庭というものに対する姿勢と手仕事、旦那さん修一さんの

時間を惜しまずに、ひとの幸福を掘り起こす作業、イラストとか、工作とか、

ともかく可愛くて、あちこち飾られてる、趣味のヨットの小物やら、お出かけの

愛車の色デザインも、キュート、二人の来し方のエピソードも、美しく頑なで。


b0190930_23535258.jpg


家族のイベントでは、旗があがる、これは、津端家みんなで、がんばる合図、

ちらちらと、ときおり見られる、修一さんのたどってきた道、厚木で見た

マッカーサー、ともに働いた台湾からの若者、穏やかでにこやかな目に涙も、

そして、ある日、色あざやか満艦飾の旗が青空に、きっと大切なイベントが。


b0190930_23540117.jpg


本当に心からやりたい仕事、というのを、ずっと諦めてなかったんですね、

修一さん、英子さんとふたり、宝石箱のようなお家で、細かな仕事から

力仕事まで、時間をつないでいる間も、じつは何かをいつも準備していた、

はがきを書きながら、ミニチュアを作りながら、障子紙をはがしながら。


b0190930_23540966.jpg


なにげない日常の背後に、情熱と信念がたえず存在している、そんな、

力強い夫婦の姿に、暮らしのふところの深さというものが感じられて、

すばらしいドキュメンタリー、もとはテレビで放映されたようですが、

パンフレット買い求めました、スタッフの熱意や裏話、興味深く。


b0190930_23541964.jpg


映画そのものも、いちいちの説明コメントとか、修一さん方式?可愛い。

おびただしい数の、口が開いた段ボール箱は、英子さんのあふれる愛。


シネプラザサントムーンにて6月


人生フルーツ 公式サイト


[PR]

by habits-beignets | 2017-06-29 00:27 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 わたしは、ダニエル・ブレイク

病気で失業を余儀なくされた、おじいさんが、貧しいシングルマザーと心通わせ、

なんて、ほのぼの心温まる物語かと思いきや、なかなか厳しく、鋭く、痛いです。

b0190930_22432712.jpg


イギリスのニューカッスル、実直な大工だったダニエルが、どうやら病に倒れ、

国の援助を受けるための手続きに四苦八苦、これが、見ているこちらもイライラ、

まじめに自分の窮状を伝えようとしているのに、返ってくる答えはズレまくり、

怒りをおさえて、従おうにも、わけのわからない無意味な煩雑さに、翻弄の連続。


b0190930_22435877.jpg


困窮したひとりひとりの訴えが届かないで、絶望の空気が充満した窓口で、

ふたりの子をつれた、若い母親の嘆く声が響き、たまらず援護したダニエルは、

自分の境遇だってままならないのに、彼女に同情、真心こめて出来る限りの親切、

お金はなくても、寄り添って、励まして、役立つ情報や持ってる技術で、助けて。

b0190930_22443849.jpg


けれど、いくら隣人の、やさしい気持ちやいたわる言葉があったところで、

生きてくのに、食べものや、いろんなものはどうしても必要、やはりお金が必要、

自分を理解してくれる人も、救いにはなっても、それだけでは、悲しいことに、

暮らしは成り立たない、だから、そのための国の制度のはずなのだけれど、なぜ。


b0190930_22450355.jpg


きちんと真面目に、国のための義務を果たしてきたのに、裏切られたような

やりきれなさは、どこにぶつければいいんでしょうね、援助を請うというのは、

それほどまで貶められるべきことなのでしょうか、媚びへつらえ、みたいに、

高圧的に課される手続きは、まるで、諦めろとでも、言いたげに思えて。


b0190930_22453303.jpg


自分が最後まで守りたいと願っているもの、どんな境遇になっても、大切に、

持ち続けていたものを奪われなければ、生活できない状況になってしまったら、

生きてゆく意味って、価値って、希望って、信じられるものなんでしょうか、

誰もがともに、幸福を求めることを、認めあう社会って、あり得ないの?


b0190930_22455440.jpg


いえ、みな親切なんです、隣人も知り合ったばかりの人も、見知らぬ人だって、

困ってたり倒れそうな人には、助けてくれる人がたくさん、なのに、

組織にくみこまれると、名札をつけると、とつじょ不人情に、話さえ通じず、

得体の知れない何かにたどり着けない、カフカの不条理劇さながらの、物語に。


b0190930_22461475.jpg


国民の誰もが健やかに生活できるよう、よかれ、と定められたはずのしくみが、

本来の目的から目をそらしてしまうことの、恐ろしさに、打ちのめされそうな、

善良なひとたちに、ダニエルのまっすぐな言葉が、勇気を与えてくれますように。


b0190930_22463353.jpg


シネプラザサントムーンにて6月


わたしは、ダニエル・ブレイク 公式サイト


[PR]

by habits-beignets | 2017-06-06 22:56 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー