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映画 ブラック・スワン

情熱と狂気のあわいをさまよう、映像世界に引き込まれるうち、
気持ちがおののいて、逃げ出したくなってしまうような。

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頂点にたつ、ということは、どの世界においても、ひとつの目標
なんでしょうけれど、有名なバレエのプリマの座を射止め、さらに、
それを見事に演じきる、ということのプレッシャーは、想像を絶する
凄まじさなのだということが、主人公ニナの表情から伝わってきます。

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黒鳥に備わってしかるべき、奔放さと妖婉さは、演技でまとうことが
できるものなどではなく、本来の自分が秘めている激しさを開放してこそ
表現できるものなのだと、監督から責められて苦悩するうち、黒鳥そのもの
のような、ライバルの登場もあいまって、精神的に追いつめられるのですが。

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窮鼠猫を噛む、というのはこのことなのか、これまでの抑制が強かったほど
抱えていた闇が深かったのでは、と思われるような、ほとばしる欲情に
身を委ね始めるニナの変貌ぶりは、いささか恐ろしく、それはたとえば、
鏡に映る自分が、無意識のうちに勝手にうごめくぐらいの、不気味さで。

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けれど、もしかしたら、これは特別な誰かの物語なのではなく、私たちにも
いつ起こるかもしれないことなのでは、という気が、夢の世界にいるような
不条理劇を見せられているうちに、じわじわ感じられてきました。
ふとした拍子に現われる、いつもと違う無意識下の自分に、ハッとする瞬間。

映画 ブラック・スワン_b0209183_21234597.jpg

官能の世界に身をおくことは、痛みをともなうことなのでしょうか。
まさに自分の殻を破るそのままに、血がにじんで流れる描写は、見ている
こちらも、神経がちぢみあがってしまうほどで、監督がほのめかした
「自分の道を阻む自分」との戦いの容赦ない攻撃に、少し震え上がりました。

シネプラザサントムーンにて、5月

ブラック・スワン 公式サイト

# by habits-beignets | 2011-05-19 22:54 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 シチリア!シチリア!

クライマックスで、思わず拍手をしてしまいました、音をたてないように。
素晴らしいんですよ! 現実とファンタジーの融合というか、世界観が。

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物語は50年におよぶ、三世代にわたっての、貧しかったり、悲しかったり、
ときめいたり、希望をもったり、楽しかったり、いらだったり、といった、
誰の人生にもおこる、さまざまな出来事といえるわけなんですけれど。

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冒頭、コマ遊びに興じている男の子が、煙草を買ってこいと命じられて、
遊びのじゃまをされるところから、物語は始まるのだけれど、砂ぼこり舞う
なかを駆けてくる男の子の躍動感、流れるエンニオ・モリコーネさまの音楽、
まだ何も出来事は起きていないのに、わくわくしてしまって。

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そして、次の場面、でてくるのは、さっきの男の子とはべつの男の子。
おなじように、ものすごい勢いで走っていて、どうやら、この男の子が、
物語の中心人物のような気配。ではさっきの、コマ遊びの男の子は、誰?
それが、監督の思うつぼ。映画を観ているうちに、時空を超えてしまう。

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ひとつひとつのエピソードをつなぐ説明は、あまり丁寧にされません。
けっこう強引な時間の流れ方があったりして、あっというまに何十年か
過ぎてしまうのだけれど、それが、納得できるしゃれた映像のつなぎ方で。

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ファシズムに支配された戦時、終戦後の政治的な対立、貧しい時代から
豊かな時代、あるいは抑圧された時代から自由な時代への変遷。
それが、ある視点から見れば、瞬時に起こってしまった変化なのだと、
映画は、圧倒的な説得力をもって、観ている者に伝えてきました。

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幼い者と老いた者、生きてゆく者と死にゆく者、あるいは、過去と未来、
その境界が、いかに混沌として、線引きが難しく、というか、むしろ
そこには、そもそも、違いなどなく、本来いっしょくたに存在しうべきもの
なのでは、ということが、じんわり感じられてきます。

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たとえば、近しい人が亡くなって、そのひとの思い出にひたるとき、
この映画の時間のとらえ方の感じが、わかるような気がします。
ラストの男の子の笑顔、彼を笑顔にさせたもの、まったく本当に、素敵!

ジョイランドシネマ沼津にて、4月

シチリア!シチリア! 公式サイト

# by habits-beignets | 2011-04-23 01:41 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 ハーブ&ドロシー

芸術作品なんてものは、生活に余裕のある一部のひとたちが、道楽として
集めたり論じたりするものというわけでは、決してない!ということを、
このご夫婦は、身をもって示してくださいました。

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小さなアパートに暮らす公務員ご夫婦が、なんでまた高名な芸術家の
作品群を、その部屋いっぱいにするほど集められたのか、というお話
なんですが、要は単純な話、もう、熱狂するほど好きだから、なんですね。
好きで好きで我慢できなくて、手に入れてしまう、なんとしてでも。

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気に入った作品を見つめる、だんなさまハーブの目つきといったら、もう!
まるで獲物をとらえるときのよう、と、誰もが口をそろえて言うのに、納得。
対照的な、おくさまドロシーの、よくよく吟味するような冷静な視線が、
だんなさまとは、また違った、静かな愛情と熱気を伝えてくれます。

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彼らふたりのちいさな体が、精力的に動き回るのにつれて、膨大な数の
アートがかき集められてゆくさまを見ていると、狂おしいほどの愛情と
いうものがもつ、エネルギーの物凄さが、説得力をもって、迫ってきます。
それは、作品を生み出すアーティストの情熱に、引けを取らないのでは?

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芸術って、特別なものではなくて、日々をたいせつに生きてゆく誰もの魂を
潤したり揺さぶったりする、ただそれだけのための不思議なものたちで、
それによって力づけられた者たちが、たがいに、いたわりながら交流して、
それがまた、大きな力を生み出してゆく、情熱の渦の核のようなものなのかも。

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好き、という気持ちに素直にしたがって、猪突猛進をつづけることの、
素晴らしさ、というか、それが何かを育て、豊かな世界を作り上げる力に
なるということを、現実の映像として観ることができて、励まされました。
何かが好き、何かに感動する、という気持ちを大事にして、耳を傾けること!

ジョイランドシネマ沼津にて、4月

ハーブ&ドロシー 公式サイト

# by habits-beignets | 2011-04-18 01:26 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 英国王のスピーチ

遅ればせながら、ようやくオスカー作品の鑑賞です。
ああ、お会いしたかったですよ、コリン・ファースさま。

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物語のはじまりは、まだ王子のころの、聴衆にむかってのスピーチ。
彼に対する周囲の様子から、その身分の高さは、よくわかるのだけれど、
緊張しきった必死の形相は、学芸会の舞台裏でびくびくしている男の子。
そうして、のぞんだ演説に、悲しそうに目を伏せる聴衆の表情。

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できないということがわかっていて、それをやらなければいけなくて、
そしてやっぱりできなくて、自分にがっかりすることの繰り返し。
泥沼にはまっているやりきれなさが、切々と、こちらに伝わってきます。
努力しているはずなのに、できないことの絶望感。

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彼を悩まされているのは吃音なのだけれど、その実体というか本質は、
「喋り」そのものではなく、心に深く根をおろしてしまった何か、では?
彼を支えることになるセラピストの、奔放な言動が気づかせてくれます。
自由になんでも話せる環境と、そうでない環境が、精神にもたらす大きな違い。
孤独のなかに引きこもってしまった心を、外にひらかせるには、何が必要か。

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弱い部分をそのまま受け入れて、励ます寛容さ。
衝突を怖れないで、遠慮なく思ったとおりを伝える、誠実さ。
王妃とセラピストが、それぞれのやり方で、孤独の闇から王を解き放す過程が、
心地よいハーモニーを奏でながら、描かれていきます。
王の吃音は、誰かに救いの手を求めている、メッセージだったのかも。

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穏やかに進んでゆく物語なのですが、感情をゆさぶる場面がいくつも。
王が、録音された自分の朗読を聞く場面。
王位についたときの、娘たちとのやりとり。
王がプラモデルをいじりながら、セラピストと交わす会話。
喧嘩わかれをしたあとで、王が自らセラピストを訪ねる場面。
そして、いよいよ、大きな責任を負ったスピーチにのぞむ
クライマックスの臨場感。

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映像も、いかにもイギリスっぽい沈んだ色調で、きれいです。
カメラワークも、少し独特な感じがあって、楽しい。
台詞は、いちいち気がきいていて、ユーモアにあふれているし、
俳優陣も、みなさん、存在感があって、とても贅沢。
静かなドラマなのですが、見終わったあと、あたたかなものが心に残ります。

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それにしても、英国紳士コリン・ファースさまの凛々しさ。
「真珠の耳飾りの少女」を、また観たくなりました。
このときの彼も、とっても素敵、抑制されたセクシーさで。
そういえば音楽も同じ、アレクサンドル・デプラ、美しい。

シネプラザサントムーンにて、3月

英国王のスピーチ 公式サイト

# by habits-beignets | 2011-03-25 20:50 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 海炭市叙景

モノクロの世界に取り残されたような、雪にけぶる海と炭坑の街。
そこに浮遊する、いたいけな魂たちの、せつない揺らぎ。

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兄が造船所を解雇されてしまった兄妹の、つましい年の瀬と年明け。
進水式のときの、彼らの無邪気な笑顔のまぶしさが、印象的なだけに、
初日の出を見守るときの、いたましげな様子が、胸をうちます。

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ささやかな喜びを、たいせつにしようと、猫とのふたりぐらしを、
頑強にまもり通そうとする老女の、飄々と見えるそのなかにも、
ものおもわしげな、皺にいろどられた表情。

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ちいさなプラネタリウムを操作する男は、夕暮れと夜明けのあいだの、
人工的な星空の美しさを、自分の手でくり返して映しながら、
かつて愛するひとと眺めた、ほんものの星空を、あきらめきれないで。

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トラックにプロパンガスを載せて、日々うごきまわるだけでは
飽き足らないのか、若社長は、新しいことを始めようとも、うまく
いかず、どころか、やすらげる家庭も持てないで、いらだってしまい。

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仕事で故郷にやってきたのに、家をたずねることはできないで、
誘われるまま、なりゆきで、場末のスナックで、無為に夜を
すごしてしまう、うだつのあがらなさそうなビジネスマン。

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それぞれが、ゆるやかに繋がる、5つの物語に登場するひとたちは、
その表情が、笑顔も、沈痛な面持ちも、怒りも、みな真剣で、
静かに圧倒されて、ひきこまれてしまいます。

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こんなに、胸にまっすぐ訴えてくる映画は、とてもひさしぶりだったので、
パンフレットを買い求めたのですが、驚いたのは、プロの俳優ではない
一般の方々が、かなり重要な役を演じていて、かつ、けっしてプロには
ひけをとらないたしかな存在感を、見せてくれていること。

佐藤泰志さんという、不遇の小説家の作品が、原作ということなのですが、
その小説を愛し、映画を愛しているひとたちの情熱が、根気よく丁寧に、
つくりあげた映画なのだということが、パンフレットの随所に描かれていて、
だから、魂にうったえてくるものができたのだなあ、と、思わず納得です。

商業的な大作だけではなく、こういった作品も、ぜひたくさんのひとたちに、
見ていただけたらなあ、と、応援したくなりました。

シネプラザサントムーンにて、2月

海炭市叙景 公式サイト

# by habits-beignets | 2011-02-27 20:25 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー