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映画 英国王のスピーチ

遅ればせながら、ようやくオスカー作品の鑑賞です。
ああ、お会いしたかったですよ、コリン・ファースさま。

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物語のはじまりは、まだ王子のころの、聴衆にむかってのスピーチ。
彼に対する周囲の様子から、その身分の高さは、よくわかるのだけれど、
緊張しきった必死の形相は、学芸会の舞台裏でびくびくしている男の子。
そうして、のぞんだ演説に、悲しそうに目を伏せる聴衆の表情。

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できないということがわかっていて、それをやらなければいけなくて、
そしてやっぱりできなくて、自分にがっかりすることの繰り返し。
泥沼にはまっているやりきれなさが、切々と、こちらに伝わってきます。
努力しているはずなのに、できないことの絶望感。

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彼を悩まされているのは吃音なのだけれど、その実体というか本質は、
「喋り」そのものではなく、心に深く根をおろしてしまった何か、では?
彼を支えることになるセラピストの、奔放な言動が気づかせてくれます。
自由になんでも話せる環境と、そうでない環境が、精神にもたらす大きな違い。
孤独のなかに引きこもってしまった心を、外にひらかせるには、何が必要か。

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弱い部分をそのまま受け入れて、励ます寛容さ。
衝突を怖れないで、遠慮なく思ったとおりを伝える、誠実さ。
王妃とセラピストが、それぞれのやり方で、孤独の闇から王を解き放す過程が、
心地よいハーモニーを奏でながら、描かれていきます。
王の吃音は、誰かに救いの手を求めている、メッセージだったのかも。

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穏やかに進んでゆく物語なのですが、感情をゆさぶる場面がいくつも。
王が、録音された自分の朗読を聞く場面。
王位についたときの、娘たちとのやりとり。
王がプラモデルをいじりながら、セラピストと交わす会話。
喧嘩わかれをしたあとで、王が自らセラピストを訪ねる場面。
そして、いよいよ、大きな責任を負ったスピーチにのぞむ
クライマックスの臨場感。

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映像も、いかにもイギリスっぽい沈んだ色調で、きれいです。
カメラワークも、少し独特な感じがあって、楽しい。
台詞は、いちいち気がきいていて、ユーモアにあふれているし、
俳優陣も、みなさん、存在感があって、とても贅沢。
静かなドラマなのですが、見終わったあと、あたたかなものが心に残ります。

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それにしても、英国紳士コリン・ファースさまの凛々しさ。
「真珠の耳飾りの少女」を、また観たくなりました。
このときの彼も、とっても素敵、抑制されたセクシーさで。
そういえば音楽も同じ、アレクサンドル・デプラ、美しい。

シネプラザサントムーンにて、3月

英国王のスピーチ 公式サイト

# by habits-beignets | 2011-03-25 20:50 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 海炭市叙景

モノクロの世界に取り残されたような、雪にけぶる海と炭坑の街。
そこに浮遊する、いたいけな魂たちの、せつない揺らぎ。

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兄が造船所を解雇されてしまった兄妹の、つましい年の瀬と年明け。
進水式のときの、彼らの無邪気な笑顔のまぶしさが、印象的なだけに、
初日の出を見守るときの、いたましげな様子が、胸をうちます。

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ささやかな喜びを、たいせつにしようと、猫とのふたりぐらしを、
頑強にまもり通そうとする老女の、飄々と見えるそのなかにも、
ものおもわしげな、皺にいろどられた表情。

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ちいさなプラネタリウムを操作する男は、夕暮れと夜明けのあいだの、
人工的な星空の美しさを、自分の手でくり返して映しながら、
かつて愛するひとと眺めた、ほんものの星空を、あきらめきれないで。

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トラックにプロパンガスを載せて、日々うごきまわるだけでは
飽き足らないのか、若社長は、新しいことを始めようとも、うまく
いかず、どころか、やすらげる家庭も持てないで、いらだってしまい。

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仕事で故郷にやってきたのに、家をたずねることはできないで、
誘われるまま、なりゆきで、場末のスナックで、無為に夜を
すごしてしまう、うだつのあがらなさそうなビジネスマン。

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それぞれが、ゆるやかに繋がる、5つの物語に登場するひとたちは、
その表情が、笑顔も、沈痛な面持ちも、怒りも、みな真剣で、
静かに圧倒されて、ひきこまれてしまいます。

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こんなに、胸にまっすぐ訴えてくる映画は、とてもひさしぶりだったので、
パンフレットを買い求めたのですが、驚いたのは、プロの俳優ではない
一般の方々が、かなり重要な役を演じていて、かつ、けっしてプロには
ひけをとらないたしかな存在感を、見せてくれていること。

佐藤泰志さんという、不遇の小説家の作品が、原作ということなのですが、
その小説を愛し、映画を愛しているひとたちの情熱が、根気よく丁寧に、
つくりあげた映画なのだということが、パンフレットの随所に描かれていて、
だから、魂にうったえてくるものができたのだなあ、と、思わず納得です。

商業的な大作だけではなく、こういった作品も、ぜひたくさんのひとたちに、
見ていただけたらなあ、と、応援したくなりました。

シネプラザサントムーンにて、2月

海炭市叙景 公式サイト

# by habits-beignets | 2011-02-27 20:25 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 ソーシャル・ネットワーク

SNSって、よくわかってなかったんですけど、私。
ミクシィも、すぐやめてしまったし。
ネットで社交の場とか、必要ではないんですよね、オバさんだし?

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でも、それで世界がひろがるってことは、よくわかります。
ものすごい数のひとびとと、じっさいに会うことがなくても、
その思想や感性や趣味まで、知ることができますものね。

ちょっと怖いなあと思いながらも、その世界にとびこんでみたら、
やめられなくなるんでしょうね、麻薬的魅力もあるような。

そんな、怪物みたいなものが、創られて、育ってゆく過程が、
もちろん、実話そのままではないのでしょうけれど、
おおよそ、わかるような気持ちにさせられて、見守りましたが。

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物語の進行は、最初はそうとは気づかなかったのですが、
ふたつの裁判での証言にそって、場面が映しだされるかたちで、
スピード感があって、ひきこまれます。
あっというまに、世界が変わる、その臨場感。
やはりこれは、監督の力量なのかも。

いろんな見方があるでしょうけれど、とても、共感を覚えたのは、
主人公が、自分の創りだしたものを、商業的な道具にすることより、
ひたすら自分の理想にちかづけようと、こだわりつづけるところ。

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ひとを欺いたり、傷つけたり、ずいぶん利己的な人間のように
描かれているかんじもあるけれど、妥協しないで自分の世界を
大事に守る姿勢には、なんだか、せつない気持ちもおこって。

どんな、巨万の富を得るようなことになっても、けっきょくのところ、
ただロマンチックな男の子の夢が、巻き起こしてしまったことなのだと、
微笑ましく思われてくる、ラストであったりしました。

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シネプラザサントムーンにて、2月

ソーシャル・ネットワーク 公式サイト

# by habits-beignets | 2011-02-18 02:00 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 マザーウォーター

京都を舞台にした、自立したおしゃれな女性たちの日常が、
ほのぼのと描かれた作品、と思っていると、ちょっと肩すかし、
といったところがあるかもしれません。

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街並の風情、お店の雰囲気、登場人物たちの出で立ちなどは、
たしかに、ちかごろ流行りのファッション雑誌を見るようなのだけれど。

それぞれの背景が、不親切なほど、なにも語られず明かされす、
すこし頑張って、こちらの想像力を総動員させないと、
あやうく、退屈きわまりない映像にしか、ならない危険も。

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ときおり、たぶん本当にその街で暮らしているひとたちとの
やりとりが、出てくるのだけれど、その、物語をざっくり切るような
異物感に、ハッとして戸惑ってしまい、妙な感慨を抱いたり。

これは、恋愛なのかなあ、そうじゃないのかなあ、
セツコさんとヤマノハさんを見ていても、よくわからないのだけれど、
でも、そういえば、恋愛の始まりって、そんなもんなんだよなあ、なんて。

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どうして、こんなちょっとした言葉のやりとりで、これらのひとたちが、
つぎつぎつながって、心地よさそうにしているのか、不思議な気が、
しなくもないけれど、あんがい近所に住んでいるということだけで、
というか、とくに「ここ」を選んで住んでしまったひとたちだからこそ、
顔を見合わせただけで、なにかわかりあえる、そういうことがあるのかも。

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最初と最後だけ、登場する、おかあさん、らしき女性の存在も、
妙に意味深なのだけれど、物語をはらんでいる何かの象徴なのかしら、
というのは、すこし考えすぎだったりするでしょうか。

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お洋服、みなさん、それぞれ個性をだしてすてきでした。
キョンキョンのワンピース姿、小林聡美さんのバーテンダーぽいキリッと
した白いシャツ。

シネプラザサントムーンにて、2月

マザーウォーター 公式サイト

# by habits-beignets | 2011-02-09 17:41 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 ノルウェイの森

わたくし、ご他聞に漏れず、村上春樹サマの「文体注射」に、
へろへろにやられちゃって、かつて中毒になったことが。
なのでその、おっかなびっくり、観たわけなんですけれど。

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冒頭の、キズキくんを交えての高校生時代を眺めているうち、
もうそれだけで、少しせつなくなってきました。
とても楽しそうでもあるのだけれど、どこか悲しげで痛々しくて。
なんて、ストーリーをすでに知っているからかもしれないのだけれど。

細かな設定など、小説とは当然ちがっているのだけれど、
それでもかなり、とくに台詞など、可能な限り忠実になぞられていました。
そういえば、主人公は「変わったしゃべり方」をしている
ということだったけれど、たしかに松山ケンイチくんのしゃべり方は、
ずいぶん変わった感じで。

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全共闘時代の大学の雰囲気が、当時をよく知らないので、
そのままなのかは、よくわかりませんでしたが、
ファッションや小物が、目に鮮やかで楽しめました。
学食の光景、アパートのキッチンの感じ、キチキチのミニスカートなど。
素朴で田舎っぽいかんじの直子と、都会の進んだ女の子のかんじの緑と。

でも、ほんとうは、と、やっぱり思ってしまうのだけれど、
緑さんは、いわゆる「生」の象徴として、主人公をがんがん振り回す
エネルギッシュで太陽みたいな女の子のはずだったのに、すこし物足りず。
下品な言葉を、可愛らしく言い放って、ひそやかな自分の苦悩や悲しみを、
あかるく笑い飛ばそうとする、けなげな女の子のはずだったのだけれど。

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直子さんも、たしかに繊細で、傷つきやすい、あやうい感じは見られたけれど、
もっと美しく、消え入りそうな、はかなげな姿を、見てみたかったような。
どこかに、ふとかいま見られてしまう、奇妙な力強さが、
ちょっと気になったりして。

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映画で、いちばん魅力的な女性は、ハツミさんだったようにも思えます。
彼女には、唯一リアリティが感じられたというか、普通のけなげさ、苦悩が、
とても、いじらしく、せつなかった。
それから、じつをいえば、レイコさんの大人の女っぷりを、
かなり期待してもいたのだけれど、終盤のやりとりは、なんだかありきたりで、
ちょっとがっかり。

でも、小説の世界を、とてもたいせつにしていることは、つたわってきました。
たとえば、それは、しばしば映しだされる、
森や草原や海などの、人間の世界を超越したような、
厳しさや崇高さが感じられる、自然の風景だったり。
ときおり、耳鳴りのように響いてくる、痛々しそうでもある音楽だったり。
ジョニー・グリーンウッドは、やはり、やってくれましたね、というかんじ。

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自分の思い描いていた印象とは、かなり違うと思いながらも、
あるいは、こういう作品だったのかもしれないなあ、などと、
鑑賞後に、原作を読みかえしたりするのも、
またひとつの読書の楽しみになるのかもしれません。

シネプラザサントムーンにて、1月

ノルウェイの森 公式サイト

# by habits-beignets | 2011-01-15 17:22 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー