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映画 92歳のパリジェンヌ

すでに、いくらかありふれた感さえある、テーマとなってしまいましたが、
実話がもとになっているんですね、フランス元首相の母親がじっさいに。

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92歳となってもハツラツ、家族みんなで誕生日を祝う会を開いてくれて、
これぞ、絵に描いたような幸福と映るのに、その席での衝撃の宣言が波紋を、
そりゃ当然でしょうね、これからもどうか元気に、と祝福する集まりに、
あえて水をさすかのような、どころか、悪意さえ汲みとれそうな、決定通告。

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本気とは思えない、うつ病なのでは、疑いたくなるのも、無理もなさそう、
端からみれば、多少の衰えはあるにしても、充分まだ元気、身ぎれいだし、
家政婦に助けてもらってはいるけれど、きちんと暮らしは成り立っていて、
生きるのが苦痛になっているとは、信じられない、むしろそれは我が儘では。

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それでも、揺らぐ気配のない老母の決意に、反発するより寄り添うことで、
彼女の真意、願いを理解しようと、戸惑い、ためらい、うなされる娘が、
幼い頃と変わらず、母を求めすがりたい気持ちを捨てられない自分と、
もはや、頼られるほどの力を保てなくなっている母との関係に、立ち向かい。

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老いの不安って、当人にしかわからない、繊細なところが、あるのかも、
認めたくはないけれど認めざるをえない、その悲しい進行は、恐ろしく、
誰かに打ち明けるのも、はばかられて、けれど、逃れられないと諦めたら、
いっそ潔く受け入れて、あえてクールに対処することでこそ、打ち勝てて。

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生きるって、自分の意志を実行できること、そんなふうに過ごしてきた母を、
ずっと身近に感じてきたことを思い起こせば、別れのつらさを耐えてでも、
彼女の希望を受け入れたい、彼女の姿勢を理解したい、絶えず逡巡しつつも、
悔いのない人生をたすけたい、いつか訪れるそのときなら、むしろ自由に。

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けれど、揺れるし苦しいですよね、娘も息子も孫も、それぞれの立場で、
愛情が深いのはおなじでも、向き合い方はちがって、どれが正しくて、
どれが間違っているとは、確かではないまま、誰もが、自分の気持ちが、
置いていかれるような、不安と苛立たしさに、我を失いそうになって。

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本来は、自然にまかせて人生をまっとうするべきなのでは、と思うけれど、
発展した医学をまえに、なにが自然なのかも曖昧になってしまったような、
ここまで差し迫った決断が必要になるなんて、せつない、せつない。
ところで、娘と息子では、母への感じ方ってこんなふうに違うのかもですね。

シネプラザサントムーンにて12月

92歳のパリジェンヌ 公式サイト

# by habits-beignets | 2016-12-18 22:31 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 惑う After the Rain

身近な場所が映画の舞台、という興味が先に立っての鑑賞でしたが、
お話が、いくらか綺麗すぎる気はしたものの、観た後しみじみの心地よさが。

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文学小説のような章立てで、つましく暮らす家族の歴史が、語られるのですが、
最初は、いくらかありふれた、多少のほころびはあるものの、互いに寄り添い、
日々の暮らしを大切にいとなむ、一家の日常が映し出される印象だったのが、
時空を飛びながら、父親、母親、長女、次女、それぞれの覚悟の物語が。

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親が子の一瞬一瞬をも慈しみ、その成長を、絶えず捉えようとまなざしを向け、
やがて大人になったわが子を手放すまでの、当たり前な印象の家族のあり方が、
ささやかな努力の積み重ねで、奇跡のように紡がれている事実が、かげりなく、
まっすぐに訴えられて、あらためて、家族って不思議な世界、拠り所の曖昧さ。

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思いのかけちがいがあっても、考えの不一致に苛立っても、突き放せないで、
あきらめきれずに、わかりあいたくて受け入れるけなげさが、家族なのかも、
傷ついたり絶望しそうになっても、安心して帰れる場所が、誰しも必要で、
それはだから、生涯かけても手に入れたいと、どこか本能で感じているのかも。

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昭和の初期から55年まで、旧い料亭や私塾、庭の佇まいが、そこで暮らす
ひとびとの、自らの行く末を案じながらも、ささやかな希望を胸に抱いて、
せいいっぱい力をつくす気丈さを、静かに励ましているように温かく映って、
祭りの鐘、豆腐屋の笛、雨の音、誰かの励ましが、人知れず届いてくるよう。

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婚礼の光景など、いまはお目にかかれない和やかさ艶やかさ、遠い昔を語る、
懐古趣味っぽくもあるけれど、いまものこる、旧いお屋敷の気配からうまれた、
物語が、長年にわたる壮大な歴史を映画に語らせた力強さが、大団円とともに、
そこにあるだけの、風景が、過去の物語をはらんでいることを伝えてくれて。

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いまでもしじゅう通りかかる町並みが、30年以上前の風景として映るって、
なんか妙ですけれど、たしかにあんまり変わってなかったり、というか、
むしろ昔っぽく整備してたりするのかも、ロケ地の価値とか、考えてる?

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正直、セリフとかちょっとわかりやすすぎる物足りなさを感じたのですけれど、
おとぎ話ふうの平易さは、書割りっぽい舞台に相応しかったかもしれなくて。

シネプラザサントムーンにて11月

惑う After the Rain 公式サイト

# by habits-beignets | 2016-12-03 11:01 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 トランボ ハリウッドに最も嫌われた男

ローマの休日、名作ですよね。むろん、オードリー・ヘプバーンの魅力全開
なわけなんですけれど、あのシンプルで奥深い脚本もすばらしく、なのに、
誰が書いたのかって、あまり注意してなかったり、こんなドラマがあったとは。

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まだ記憶の隅に残ってる、東西冷戦、けれどこれほど過酷な現状だったなんて、
しかもクリエイティブな業界のはずなのに、個人の思想や発言が、つぶさに
検閲されて、というか弾圧さながら、優れた脚本家のダルトン・トランボにも
追及の手はゆるめられず、体制に反発すれば、ソッコー刑務所の理不尽さ。

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思想が罪とされるなんて、まったく信じられないおそろしさなんですけれど、
どうやらそこには、たくさんの血がながれた戦争の残像、仮想敵国への憎悪が
反映された、激しい排他的感情があるようで、そんな無自覚なままの横暴さに、
ひとびとの心をなぐさめ、勇気づける物語を描く者さえも、痛めつけられて。

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服役後に出所しても映画界からは追放、脚本家としての腕はたしかなのに、
危険分子に仕事はゆるされず、けれど生活のため、ありあまるアイデアのため、
名前を伏せて廉価で、密かに膨大な量の名作や娯楽作をつぎつぎ、これは闘い?
賞讃や尊敬、穏やかであたたかな暮らしも諦めて、まるで何かへの挑戦のよう。

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いやきっと、こっそり脚本を書きつづけることのかなしさは、おしはかれず、
名誉や報酬は欲せずとも、自らの創作を語れない、思いを吐露できないことは、
世界とつながっているたしかさを、奪われたようなものでは?
正当な批判なら、きちんと対峙できるけれど、それさえ許されない侮蔑など。

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終盤、わずかに距離をおきながらも、ずっと寄り添いつづけた娘が、
目からウロコの洞察力をみせてくれるのだけれど、勇敢な者に光さす瞬間が、
自分を信じて、あるいは、信じるに値するか絶えず検証しつつ、屈しなければ、
大切なものは、きっと世の中に生き残れる、そんな希望がかいまみえて。

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それにしてもトランボさん、あれもこれも著名な映画の脚本書いたんですね。
「ローマの休日」ラスト、王女の凛とした表情が奇跡的に素晴らしいですが、
トランボさんの不屈の精神が、あたかも映ったように、不思議に感じられて、
市井の人々のささやかなきらめきのような自由を、守りたい、そんな瞳と口元。

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シネプラザサントムーンにて10月

トランボ ハリウッドに最も嫌われた男 公式サイト

# by habits-beignets | 2016-10-04 00:04 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 ブルックリン

生まれ育った地元での、穏やかだけれど、窮屈な暮らしから解き放たれようと、
憧れの新天地に、期待と不安ではちきれそうになりながら、海を渡った彼女の、
澄んだ瞳にうつる、さびしさやよろこび、輝きや曇りが、胸にせまってきます。

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年老いた母と姉妹での三人暮らしは、アイルランドの気候もあいまってか、
質素でまじめなつましさに、いくらか絶望の気配が漂い、なんとかして風穴を、
そんな、若い娘たちのすがる気持ちがうかがえて、たぶん、妹むすめが、異国へ
発つのは、単に仕事をもとめるだけではなく、なにか希望を見いだしたくて。

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けれど、日々なじんできた、身近な愛するひとたちと、遠く離れるのは、
なんとも体をひきちぎられそうな苦痛、出航のときの、見送る顔と旅立つ顔の、
思いの交感、いつまでもつながっていたい、たくさんの色とりどりのテープ、
きっと、もしや二度と会えないかも、無事の祈りをわかちあう、せつなさが。

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同郷の仲間がいるとはいえ、新しい暮らしは、なにもかも勝手がちがい、
微笑もなくしてしまう、耐えがたい望郷の念、けれど、若さはおそるべし!
にぎやかな催しや、異郷の人との出会いにときめいて、いつしか、誰かれの
やさしさに、包まれている幸福に、気持ちも体もほぐれてゆき、輝く時間。

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大人になるって、自分の居場所をみつけること、自分の価値を見いだすこと、
自分を必要としている世界、自分が必要としている世界を、見つけて選ぶ、
その課題に、真剣に真正面からむきあう、ということなのかも、
たとえ誰かが用意してくれた道から外れても、自らの手で力ずくで切り開く。

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あれほど心細かったのに、ようやくのびのび、自分の幸福を勝ち取って、
自信にみちあふれていたところへ、思わぬできごとで再び海を渡るのですが、
目に映るものは、覚えていた印象とはどこか奇妙にずれて、なにげない光景が、
このうえなく愛おしく、愛おしいはずのものが、戸惑うほどひどく鬱陶しく。

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人生の岐路って、たしかにとても大切で、ものすごく悩む、できれば、
すべてのひとに幸福になってほしいし、でもすべてを選ぶことはできなくて、
たとえば肉親への愛はたしかなのに、ともに暮らすことが、自分の未来を
輝かせてくれるのか、たとえば誰かを裏切っても、選ぶべき幸せがあるのか。

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親元で暮らしているときには、想像もつかなかった自分のありようと、
自分をとりまく世界の見え方、大切なものを諦めなければならない寂しさと、
それに耐えられることを信じる強さ、初めての航海の揺れにはわけもわからず
転げ回っていた頼りなさが、遠い昔となったとき、自分の足ですっくと立って。

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故郷との決別って痛いけれど、糧になる予感で、こらえられるものなのかも。
シアーシャ・ローナンの澄んだ瞳はあいかわらず、吸い込まれそう。

シネプラザサントムーンにて8月

ブルックリン 公式サイト

# by habits-beignets | 2016-08-22 22:17 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー

映画 さざなみ

夫婦を長いあいだやってると、相手のことすべて、わかってるようなつもりに、
なってるのかもしれないですね、一体感をなんの疑いようもなく、信じられて。

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結婚45周年のパーティーを目前に、夫のもとに、とつぜん、スイスの氷河で、
50年前の事故での遺体が発見されたというニュースが、知らされるのですが、
不穏なまでの、彼の動揺ぶりが、妻をも、訳のわからない不安に陥らせて、
けれど、どうにか乗り越えたい、誰かに罪や悪意があるわけではないのだから。

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若さを保ったままの女性の遺体は、夫のかつての恋人、とはいえ、結婚する前の
関係だし、夫に非があるようなことではない、けれど、自分たちの結婚生活を
振り返るイベントよりも、あきらかに彼の気持ちはスイスの山へ向かっている、
その苛立ち、まるで何かを試されているような出来事に、孤独感を強いられて。

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思いがけない相手の過去や思いを知ると、途端にすべて疑いたくなるってこと、
あるような気がします、あらゆることに裏があるような感じがして、たとえば、
自分へのやさしさ、愛情だと無垢に信じていたものさえ、何かの代用ではと、
本当に求められ、価値があるのは自分ではなくて、見知らぬ誰かなのではと。

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いったん疑い始めたら、どんどんハマってゆくだけですものね、他人の言葉は、
なぐさめにしか響かなくて、ことに、疑っている相手の言動は、誤摩化しにしか
受け止められない、彼の気持ちを理解しようとすればするほど、深い闇へ、
自分の人生にさえ、自信がもてなくなって、助けてほしいのに、叫べない。

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でも、満足できるほど信じられる、すべてをわかりあえる関係って、
無い物ねだりなのかも、お互い知らない部分、わからない部分を抱えながら、
それでも寄り添ってやってゆく覚悟、というのが、必要であるのかもですね、
自分にはないものを、相手が求めているような気がしても、仕方ないもの。

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45年経ってこそ、いろいろの考えや思いがとりとめもなく浮かんでくる、
そんな感じってあるのかもしれません。自分たち夫婦は、これでよかったのか、
相手にとって自分は最良のパートナーであったのか、くよくよ考えたり、
長い年月のはずだったのに、あっというま過ぎて、呆然だったり。

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映画のラストはちょっと苦いような気もしましたけれど、苦くても、諦めない、
それが、日々、年月を重ねてゆくということのような。

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ところで、いかにもインテリ田舎暮らし風シャーロット・ランプリングの、
ナチュラルな装いが、なんともカッコよくてすてき。

シネプラザサントムーンにて7月

さざなみ 公式サイト

# by habits-beignets | 2016-07-15 20:43 | シネマのこと | Comments(0)

『マッピー』用ボーダー